「事実は小説よりも奇なり」という言葉があります。
じつはこの言葉、小説家にとっては当たり前だったりします(笑
なぜなら、小説(物語)の世界には、
「『奇』なストーリー展開にしてはいけない」
という原則があるからです。
小説(物語)が「奇」であってはいけない
日常生活のなかで、
「このあいだ、こんなことがあってさぁ」
という前置きで人に語るエピソードというのは、いわゆる「すごい偶然」が大半です。
思いもよらない出来事――「そんなことがあるのか」と言いたくなるような偶発的な出来事が、話題としてあげられます。
そんな感じで、私たちが日常で語るエピソードというのは「すごい偶然」がほとんどです。
仰天ニュースやアンビリバボー(信じられない)を題材にしたテレビ番組が長くつづいているのを見ても、現実の世界では「奇」な出来事がたびたび起こり、またそれが語りぐさになっているんですね。
ですが、
小説の世界は「奇」であってはいけません。
「すごい偶然」で話をつくってはいけない――それが基本だからです。
物語というのは理屈っぽい世界
小説(物語)の世界では、起こることはすべて起こるべくして起きなければなりません。
たまたまその場に居合わせたとか――
探してもいないのに偶然に証拠を見つけたとか――
好運にもとなりにいた人が医者だったおかげで助かったとか――
そういった偶発的なストーリー展開を、作家はさけなければいけません。
実際、そんな話を書いたら「作者のご都合主義で話がつくられている」と思われるだけですよね(苦笑
小説(物語)のなかでは、起こることはすべて必然でなければいけません。
物語というのは、かなり理屈っぽい世界なんですね。
その場に居合わせたのなら、その場にいた理由がなくてはなりません――
証拠を見つけたのなら、そこを探し、それが重要な証拠であることに気づく明確な根拠がなくてはなりません――
となりの人が医者だったおかげで助かったのなら、その時となりに医者がいた理由がなくてはなりません――
作家にとって小説は、「事実よりも現実的なり」だったりするんですね(笑
作中で、偶発的な出来事(奇)を描写する方法
と言っても、これはあくまでも原則ですので、かならずそうしなければいけないということではありません。
ときには偶発的な出来事(奇)も起こらないと、物語としておもしろみに欠けてしまいますよね。
ですが、その場合は「物語の原則」にはずれたことをするので、表現のしかたに工夫が必要になります。
どうやって工夫をするのかと言うと――
そこは、作家の腕の見せどころです(笑
ですので、あなた自身で最適な表現のしかたを模索していただきたいのですが……。
でもせっかくですので、僕がよく使うやり方をふたつほどご紹介します(笑
**********
●全体を描写することで偶然を必然にする
発作を起こして苦しんでいたとき、たまたまそこに医者が居合わせた――
というストーリー展開を描くときに、主人公(発作を起こした人物)のことだけを描写して表現したら、あまりにも都合が良すぎるため、「作家のご都合主義」になってしまいます。
ですが、それまでに医者のことも描写していた場合は、医者がそこに行くまでの過程が作中で描かれることになります。
読者は、医者がそこに行く理由や過程を知ることになります。
主人公が発作を起こした場所に、医者が居合わせたのはまったくの偶然なのですが、
- 主人公がそこに行った理由
- 医者がそこに行った理由
その両方を描写することで、「その場所で両者が出会う」ということに説得力が生まれます。
つまり、
いっぽうの立場から描写した場合は「都合のいい偶然」といえる出来事も、全体(双方の立場)を描写した場合は「必然的な出来事」として認識されるんですね。
*
●登場人物のリアクションを使う
この方法は、ある意味、反則技です(笑
人は、「すごい偶然」といえるような出来事に遭遇すると、驚きます。
ですので、すごい偶然(作家の都合で起こった偶然)に遭遇した登場人物に、しっかりと驚いてもらいます。
作中で、すごい偶然(都合のいい偶然)が起こったときに、登場人物が当たり前のような反応をしていると、読者は「作家のご都合主義だ」と感じます。
ですが、登場人物が、
「ま、まさか、こんなことが起こるなんて……!」
といったリアクションをすると、読者はこの偶然を「ひとつの出来事」として受け入れます。
登場人物の「驚きの感情」が描写されたことによって、読者は、
「そうだよな、こんなことが起こったら驚いて衝撃を受けるよな……」
と共感をおぼえ、納得するからです。
そしてその偶然を、驚きの出来事(実際に起こり得る偶然)として受け入れます。
**********
小説(物語)は架空の世界――理屈を超えた偶然だってあったほうがおもしろい
小説(物語)というのは、かなり理屈っぽい世界です。すべてにおいて筋(すじ)がとおっていなければなりません。
と言っても、架空の世界を描くのですから、理屈を超えたストーリー展開もあったほうがおもしろくなります。
その場合は、作家のご都合主義にならないように、表現のしかたを工夫する必要があります。
ここでご紹介した方法は「本条克明の場合は」という表現法ではあるのですが、よろしければ参考になさってみてください。
※プロット作成の注意点に関するほかのお話
→物語における『謎』のつくり方と、気をつけなければいけないこと
→小説(物語)におけるリアリティは、「現実的」でなくてもかまわない
更新
2018年9月4日 関連している記事のリンクを追加。