2018年2月24日土曜日

キャラクターのネーミング (本条克明の場合)


 ロボットクリエーターの高橋智隆(たかはし・ともたか)さんが、ロボカップ(ロボットのサッカー大会)に出場する「ヴィジオン ネクスタ」というサッカーロボットの制作に参加したときのエピソードとして、こんなことを著書のなかで語っています。

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 ネーミングは「ヴィジオン」の後継機ということで、次世代の担い手=Next Agentの意味を込めた「ヴィジオン ネクスタ(VisiON NEXTA)」に決まった。
 私はサッカーにちなんだ名前としてエースストライカーの「エストラ」ゴールキーパーの「ゴルキパ」、極めつけに得点王の「トクテオン」などのすばらしいネーミングを提案したがすべて却下されてしまった。
 なぜだ。

出典:『ロボットの天才』 高橋智隆・著  メディアファクトリー、空想科学文庫(2011年)
ネット上で読みやすいように改行を加えて体裁(文章の見た目)を整えてあり、一部文字の拡張を施しています。

<参考動画>
 VisiON NEXTA 自己紹介
 vstonevstone様の動画(YouTube)
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 …………。
 ………………・
 ………………ぷっ。(←笑ってる)


ネーミングは、登場人物のイメージに合っていることが大事


 高橋智隆さんのネーミングが却下されてしまった理由――
 それはもちろん、名が体(たい)をあらわしすぎているからですよね(笑

 キャラクターのネーミングでは、名が体をあらわしすぎるのは好ましくありません。
 たとえば、イケメンのモテモテ男の名前が「池目 茂手男(いけめ・もてお)」だったりしたら、存在自体がギャグになってしまいます。

 でもね――

 物語を創作している人からすると、これ、やりたくなるんですよね(苦笑

 というのも、ネーミングにおいては、
「名前が、そのキャラクターのイメージに合っていること」
 それが何よりも重要だからです。

 そして、名前をキャラクターのイメージに合わせるてっとり早い方法として、「名が体をあらわしているネーミング」をしたくなっちゃうんですよね(苦笑

 だから、つい、これをやってしまいがちなのですが……

 ゴールキーパーの「ゴルキパ」や、得点王の「トクテオン」というネーミングが笑いをさそってしまうように、名が体をあらわしすぎていると滑稽(こっけい)になってしまいます。

 ですので、ネーミングの際には、
「名が体をあらわしすぎてはいないけど、でも、登場人物のイメージに合っている」
 ということを、僕の場合はマイ・ルールとしてみずからに課しています。


名前ひとつで、創作がとまってしまうこともある


 とは言っても、これって簡単じゃなかったりするんですよね(苦笑

 たとえば、以前に『きみの微笑みが嬉しくて』という恋愛小説を電子書籍にして配信していたのですが……

現在はWEB小説として『恋とは幸せなものなんだ』というサイトで公開しています。
目次 『きみの微笑みが嬉しくて』 (恋とは幸せなものなんだ)


 この作品のときは、プロットはすべてできあがっているのに、ヒロインの名前だけがどうしても決まりませんでした。
 作中では名前(下の名前)で呼ばれることはあまりないので、
「とにかく姓(名字)だけは、イメージにぴったり合っていなければいけない」
 と自分にきびしく言い聞かせ、妥協することなくアイデアを求めつづけました。

 その結果、
「暮咲(くれさき)」
 という姓を直感的に思いついて、ようやくヒロインの名前が決まったのですが……

 このネーミングひとつのために、2週間以上も書きはじめるのが遅れてしまいました(汗

 僕の場合、こういったことはよくあることなんですけどね。


主人公の名前は平凡なほうがいい?


 余談になりますが、登場人物のネーミングに関するエピソードをひとつ。

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 007シリーズの原作者であるイアン・フレミングは、主人公の名前を考えていたとき、気分転換にとある鳥類学者の本を読んでいました。

 その本の著者の名前を見ると、ジェームズ・ボンドと記されていました。

 このとき、フレミングは思いました。
「なんて平凡な名前なんだ!」

 そしてフレミングはその名前を拝借して、007をジェームズ・ボンドと命名しました。
 というのも、フレミングにはこんな持論があったからです。

「主人公は、なるべく平凡で目立たない名前のほうが、飽きがこないので愛される」
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 フレミングの「主人公の名前は平凡なほうがいい」という考え方には、賛否両論だと思います。

 でも――

 日本でも「山田太郎」というキャラクターが愛されていたりしますので、フレミングの言うことにも一理あるんでしょうね、きっと(笑


キャラを立てるためにも、登場人物のネーミングは妥協できない


 作家として、キャラクターのネーミングは妥協できません。
 心理学の世界でも、こう言っていますしね。

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 じつは、名前には人に与える特定のイメージがあり、魅力ある名前は相手に対して「魅力的な人」というイメージを与える

出典:『【図解】 人の心はひと言で操れる』 内藤誼人・著  PHP研究所(2013年)
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 ネーミングしだいで、登場人物のキャラが立つかどうかが決まってしまう――
 そう言っても、けっして大げさではないんですね。

「キャラが立つ」とは、「登場人物に個性があり魅力的である」という意味です。物語の創作に関する業界ではよく使われる表現です。


 小説であれ、マンガであれ、シナリオであれ、物語を創作している人はみな、キャラクターのネーミングを重視していると思います。

 今回のお話はあくまでも「本条克明のマイ・ルール」ではあるのですが、よろしければ参考になさってみてください。


更新
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