前回、名前を使った文章テクニックについてお話しいたしましたが――
※こちらをご参照ください。
→名前でキャラを立てる文章テクニック (本条克明の場合)
今回は、
「相手の名前を呼ぶ」
という心理学的なコミュニケーション術についてお話しいたします。
小説にも応用ができますので、文章テクニックとしても活用できます。
会話のときに相手の名前を口にだすコミュニケーション法
日本語というのは、言葉を省略する傾向があります。
文章の場合は、省略できるところはめいっぱい省(はぶ)いたほうが、スッキリしていて「良い文章」という評価を受けます。
名前は、特に省略されやすい部分です。
たとえば、ホンジョーという人物と会話をする場合、
「ところでホンジョーくん、例の件はどうなった?」
と言わなくても、
相手(ホンジョー)のことを見ながら、
「ところで例の件はどうなった?」
と言えば、相手(ホンジョー)に伝わります。
そのため、会話のなかで名前は省略されることがとても多いです。
会話のなかに相手の名前を挿入する効果
会話のなかで相手の名前をいれると、あなたに対する相手からの好感度がアップします。
名前を呼ばずに、
「ところで例の件はどうなった?」
と言うよりも――
また、代名詞を使って、
「ところできみ、例の件はどうなった?」
と言うよりも――
「ところでホンジョーくん、例の件はどうなった?」
という言い方をしたほうが、ホンジョーくんはあなたに対して良い印象をいだき、互いの親密さが増します。
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私たちは、これほど自分の名前に敏感であり、自分の名前を尊重している。そして、自分の名前を軽々しく扱われることを嫌う傾向がある。
だからこそ、会話のなかに相手の名前を挿入すると、相手の存在を認め、尊重していることが相手に伝わり、相手からの好意を得ることができる。
だからこそ、会話のなかに相手の名前を挿入すると、相手の存在を認め、尊重していることが相手に伝わり、相手からの好意を得ることができる。
出典:『【図解】人の心はひと言で操れる』 内藤誼人:著 PHP研究所(2013年)
※「51 名前を呼ぶと親密さが増す」より引用。
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「会話のなかに相手の名前をいれる? たったそれだけか?」
と思った人もいるかもしれませんが――
じつはこの心理テクニック、相手からの好感を得る手段として、とても効果的な方法だったりします。
実際に、日常の会話で相手の名前をまめに呼んでいる人は、意外と多くありません。
名前を省いても伝えようとしていることは伝わるので、ほとんどの人が無意識のうちに相手の名前を口にすることなく会話を進めています。
だからこそ、しっかりと名前を呼ぶ人は、好感度が高くなります。
名前は、その人の「存在」を示しています。
つまり、相手の名前を尊重することは、その名前の人物を尊重するのとおなじことなんですね。
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カリフォルニア大学のレイフ・ネルソン准教授は、私たちはみな自分の名前が大好きで、自分の名前に関係した事柄までも無意識的に好むことを明らかにしている。
――〈中略〉――
私たちは、自分の名前が大好きだ! そして、自分の名前を呼びかけてくれる人も、大好きなのだ!
――〈中略〉――
私たちは、自分の名前が大好きだ! そして、自分の名前を呼びかけてくれる人も、大好きなのだ!
出典:『【図解】人の心はひと言で操れる』
※「51 名前を呼ぶと親密さが増す」より引用。
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人と会話をするときは、意識的に相手の名前をいれるようにしましょう。
きっと、いいことがありますよ。
このコミュニケーション術を、小説に応用する(本条克明の場合)
この心理学的なコミュニケーションのテクニック、小説などの物語にも応用ができます。
僕の場合は、「登場人物同士の親密さを表現する」というかたちで使っています。
あまり親密ではない関係の場合は、相手の名前を呼ばないか、あるいは、
「きみ」
「おまえ」
「あんた」
「きさま」
「てめぇ」
といった代名詞を使って相手のことを呼ぶようにします。
ですが、親密な関係の場合は、会話のなかで相手の名前をたびたび呼ぶようにします。
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「賢策……つかぬことを訊くけど、もしかしておまえ、罪の意識に縛られる必要はないってことを悟(さと)らせる『きっかけ』についても、すでに答えを知ってるんじゃないのか?」――〈中略〉――
「誠一、さては僕がもったいつけて話さなかったとでも思ってるんだろう? 僕がそんなことをするようなやつに見えるかい?」
――〈中略〉――
「賢策くん、それはわかったから、早くその『きっかけ』を教えてよ」
※『罪や過ちは消せないのか?』より抜粋
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会話の冒頭で「賢策」とか、「誠一」とか、「賢策くん」とか、互いに名前を呼び合っていますが、この部分、なくても意味は通じるので省いても問題ありません。
ですが、あえて名前を呼ばせています。
会話のなかでたびたび相手の名前を口にする――そうすることで、相手に対する好意や、互いの親密さを表現できるからです。
あくまでも「本条克明の場合は」というやり方ではあるのですが、よろしければ参考になさってみてください。
※よろしければこちらの記事もご参考ください
→キャラクターのネーミング (本条克明の場合)
→名前でキャラを立てる文章テクニック (本条克明の場合)
→言葉の使い方(ラベル)
更新
2018年10月27日 文章体裁を一部改訂。
2024年1月7日 記事内の広告を削除。