業界(出版業界、小説業界)には、ルビ(ふりがな)に関する「基本」や「慣習」と呼べるものがあります。
と言っても、日本語のルールというわけではありません。
ですので、出版業界を相手に文章を書く人以外は、特に守る必要はありません。
ですが、もし出版社が主催する「~新人賞」などの公募に作品を送ることを考えているのであれば、この『基本』や『慣習』が守られていないと、ろくに読まれることがないまま一次審査でおとされる可能性が高くなります。
登場人物の姓名は、最初にでてきたときにルビを付ける
以前に、『スピードでパワーファイターに勝つ』という作品を電子書籍にして配信していたのですが……。
※現在は『月尾ボクシングジム物語』というサイトでWEB小説として公開しています。
→スピードでパワーファイターに勝つ 目次ページ
この作品の本編1ページ目に、
といったかたちで、『滝本』という姓に「たきもと」とルビを付けています。
「『滝本』は、『タキモト』以外に読み方なんてないだろう。わざわざルビを付ける必要なんてあるのか?」
そう思った人もいるかもしれませんが、業界ではこれが基本です。
登場人物の名前(姓名)が漢字の場合は、最初にでてきたときにルビを付けるようにします。
新人賞などの選考では、これが守られていないと、それだけでおとされる可能性が高くなります。
日頃、小説を読む読書家のなかには、
「出版社から刊行されている小説には、登場人物がでてきたときにルビが付いていないものだってあるじゃないか。そんなルールがあるなんて信じられない」
と思った人もいるかもしれませんが……。
たしかに、「ルール」と言うほどの厳格な決まりではありません。
ですので、出版社から刊行されている小説には、登場人物の名前にルビがふっていない作品も多々あります。
ですが、これが「基本」です。
小説を書くうえでの基本ですので、出版社が主催する新人賞などに作品を送る場合は、これが守られていないと「基本ができていない」と見なされてしまいます。
最初にでてきたときにルビを付けたら、2回目以降の表記にはルビを付ける必要はありません。
ですが、『田中』や『山田』など、
「ほかの読み方なんてないだろう」
と思われる名前であっても、1回目の表記のときにはルビを付けるようにします。
これは、まかりまちがっても、
「読者がずっと登場人物の名前をまちがえて読んでいた」
ということが起こらないようにするための配慮です。
実際、楽しく読んでいた小説でも、後半(あるいは読後)に「名前をまちがえて読んでいた」ということが発覚すると、一気に興ざめします。
物語作品においては、「登場人物の名前を正しく読む」ということは、とても重要なことなんですね。
むずかしい漢字であってもルビはなるべく付けない
特殊な読み方をする場合でなければ、むずかしい漢字であってもルビは付けません。
それが業界(小説業界)の基本――というより、慣習(かんしゅう)です。
※慣習とは、「伝統的なしきたり」のこと。
新人賞などに作品を送る場合は、このことを厳粛に守らなければなりません。
ルビの多い作品は選考者にきらわれますので、ルビが多いというだけで、ろくに読まれることなく一次選考でおとされる可能性が高くなります。
新人賞を目指している人は、気をつけるようにしましょう。
ルビを付けてあげたほうが、本当は親切?
この慣習については、はっきり言って業界のエゴです。
編集者や、選考員や、下読み係と呼ばれる人たちには、
「自分はたくさんの文章を読んできた」
という自負(プライド)があります。
ですので、書き手側は読みやすいようにルビをふったつもりでも、
「ごちゃごちゃして見づらい」
「こんな漢字も読めないと思っているのか」
と、相手を不快にさせてしまいます。
「むずかしい漢字でもルビを付けない」という慣習は、そういう理由によって生まれたんですね。
これは「業界の慣習」ですので、出版社を介して作品を世に送りだすことを考えている人が対象の決まりごとです。
WEB上で作品を公開したり、個人で電子書籍を刊行したり、出版社を介さずに作品を公開・配信する場合は、守る必要はありません。
僕が以前に公開していた電子書籍も、ルビは多めに付けています。
画像は『罪や過ちは消せないのか?』より
※『罪や過ちは消せないのか?』は、本条克明が以前に電子書籍として配信していた作品です。現在はWEB小説として『月尾ボクシングジム物語』というサイトで公開しています。→目次 『罪や過ちは消せないのか?』(月尾ボクシングジム物語)
業界の慣習を無視してルビを多めに付けた理由は――
もちろん、そのほうが親切だからです。
僕の場合は、若い世代(主にティーンエイジャー)を対象にした小説を書いていますので、ルビを多めに付けてあげたほうが絶対に親切です。
実際、少年誌に掲載されているマンガは、ほとんどすべての漢字にルビがふってあります。
これは出版業界の人たちも、
「若い世代(ティーンエイジャー)に向けて書いた文章は、ルビを付けてあげたほうが親切」
ということを、本当は理解している証だと言えます。
ですので、僕は業界の慣習には従わずに、僕の価値観に従って、ルビの使い方を工夫しています。
ルビは、意外と奥の深い表現法
ルビをふることで本来とはちがう読み方をさせ、
「●●と書いて、××と読む」
といった表現もできます。
「過剰練習」と書いて「オーバーワーク」と読む
※画像は『罪や過ちは消せないのか?』よりルビというのは、おもいのほか奥の深い表現方法です。
工夫しだいで、読みやすくなったり、作者の親切心が伝わってきたり、ユニークな表現が生まれたりします。
効果的にルビ(ふりがな)を活用するための参考になさってみてください。
※業界の慣習に関するほかのお話
→疑問符(?)や感嘆符(!)を使うときは、業界の慣習がある
→三点リーダーの書き方や使い方には、業界の慣習がある
※マンがに関するお話
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→『少年ジャンプ』が大雑誌になったきっかけ――日本版カリギュラ効果は、永井豪先生の……
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2018年10月10日 『スピードでパワーファイターに勝つ』へのリンクを追加。
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