2018年1月12日金曜日

模写(もしゃ)は、優れた文章練習法


「文章力を高めるには、『本をたくさん読むことが絶対的に必要だ』という話を聞いたことがある。
 ……でも、私にはたくさんの本を読んでいる時間なんてない」

 そういう人には、模写(もしゃ)がオススメです。
 乱読(らんどく)するよりも、ずっと早く、確実に文章が上達します。

乱読とは、いろいろな本を手当たりしだいに読みまくること。

 実際に、僕は乱読をしたことがありますが……

 はっきり言って、模写のほうがずっと効果的に、文章力がアップしました。


本を読むことが文章の上達になるのか?


 文章の上達には、本(文章)を読むことが必須である――

 その主張は、基本的に正しいと思います。

 音楽家にとって「演奏する能力」「聴く能力」は1セットです。
 車の両輪のように互いに補い合うことで、双方の能力が発揮されます。
 ですので、音楽家は「演奏する能力」「聴く能力」の両方を、同時に養っています。

 もちろん、作家だっておなじです。
「書く能力」「読む能力」は、1セットです。
 両方を養うことによって、文章力がアップしていきます。

 ですので、文章力を高めるには、書く練習だけでなく、「読む能力」も養う必要があるのですが――

「私は仕事の合間(あいま)に執筆をしているので、たくさんの本を読んでいる時間なんてない」
「私には、本をたくさん買う経済的な余裕なんてない」

 そういう人もいるかと思います。

 その場合は、「たくさんの」本を読む必要はありません。

「この本は、おもしろい!」
「この小説は、すごく読みやすい」
「この作家の文章は、心に響くものがある」
「私は、この本(この小説)が大好きだ」

 そういった本や作品を選び抜きましょう。
 そして、あなたの感性で選んだその本を模写しましょう。

 乱読をするよりも、模写のほうがずっと早く、ずっと効果的に、文章が上達するからです。


模写で文章練習する方法 (本条克明の場合)


 おもしろいと思った本――
「この作家の文章はうまい!」と感じた本――
 好きな作家の本――

 自分の感性に従って、そういった本を選び抜きます

 少なくてもかまいません。
 1冊しかなければ、その1冊で充分です。

 ですが、かならず自分の感性に従って「この人の文章は、ぜひ影響を受けたい」という本を厳選します。
 ここで選んだ本が、あなたの文体(文章の個性)に大きく影響をおよぼすことになるからです。
どうしても見つからない場合は、「自分が書くジャンルで第一人者とされている作家の本」を選びましょう。

 そして、自分が選んだその本を、最初から、一字一句あまさず書きうつしていきます

 書きうつすときは、手書きでもワープロでもかまいません。
「文章は手書きで練習したほうがいい」という人もいますが、明確な根拠はありません。
 手書きでもワープロでも文章にはちがいありませんので、書けばかならず練習になります。
 ワープロで模写をした場合は、タイピングの練習にもなりますしね。


 模写に使う時間は、長いに越したことはありませんが、時間がとれない場合は短くてもかまいません。
 一日に10分~15分ていどでも、充分に効果があります。

 その代わり、模写をはじめたら継続しておこなうようにします
「毎日かならず」というほど厳格である必要はありません。
 ですが、週に何日かは、一日に10分~15分でもかまわないので、かならず模写をするように心がけます。


模写をすることで多くのことが学べる


 模写は、熟読よりもずっと深く文章を読みとることができます。

 書きうつすという行為は、「書く」と「読む」の両方です。
 いわば、
「書きながら読んでいる」
 という状態なんですね。

「書く」というのは、能動的(自発的)な行為です。
 みずからの行動(体験)によって学習しています。
 ですので、模写をすると、「これ以上はない」というくらいに、文章を深く読むことができます。


 たとえば――

 僕は学生の頃に、田中芳樹(たなか・よしき)先生の『銀河英雄伝説』を読んで、
「小説って、おもしろい!」
 と心の底から思い、それがきっかけとなって小説を書くようになったのですが……。

 SF軍記小説なので「自由惑星同盟軍第一三艦隊司令官」といったように、役職名や固有名詞などに漢字が多いです。
 文体は歴史小説の手法を使っているため重々しく、古文のような古めかしい言いまわしがたくさん用いられています。

 にもかかわらず、読みにくさを感じません。
 むしろ、心地よいほどスムーズに読み進めていくことができます。

 僕はこの小説をくり返し読んでいたのですが、
「むずかしい小説のはずなのに、なんでこんなにも軽快に読めちゃうんだろう?」
 と、ふしぎに思っていました。

 その理由は、模写をしてみてはじめてわかりました。

 役職名や固有名詞で漢字をたくさん使っているぶん、動詞や、形容詞や、固有名詞以外の名詞などでひらがな表記を多くして、読みやすい文章になるようにさりげなく配慮されていたんですね。

   中 → なか
  大人 → おとな
  本当 → ほんとう
  一人 → ひとり
  済む → すむ
  再び → ふたたび  etc.

 中学生の作文でも漢字で書くような言葉を、あえてひらがなで表記することで「漢字とひらがなの割合」を調和させ、文章を読みやすくしていたんですね。

 僕はこのときの模写のおかげで、
「プロの作家は見栄(みえ)や気取りを捨てて、読者への配慮を優先させて書いている」
 ということを、体験と実感によって知ることができました。


 僕は、この本をくり返し読んでいたにもかかわらず、模写をするまで気づくことができませんでした。
 模写は、熟読よりもさらに深く、文章を読むことができます。

 模写をすると、たくさんのことに気づきます。
 つまり、「ふつうに読むよりもたくさんのことを学べる」ということです。
 しかも、「書く」という行動(体験)による学習なので、身につくのが早いです。

「模写をすると、自分の文章が、模写をした作家の文章に自然と似てくる」
 ということです。

「うまい人の文章」を模写していたら、自分が書く文章も、いつの間にかうまくなっていた――
 ということになるんですね。


 僕の経験から言って、乱読をしても文章力が高まるとはかぎりません。
 広く浅くたくさん読んでも、しょせんは「浅い」からです。
 時間がかかる割に、そこから学べることは多くありません。

 それよりも、自分の感性に従って、
「好きな文章(ぜひ影響を受けて、取りいれたい文章)」
 を選び抜いて、それを模写したほうが、ずっと効果的です。

 自分にとってプラスになる文章を、
 集中的に、
 体験によって、
 深く学びとることができるからです。


「模写」という文章練習法は理屈抜き やればかならずプラスになる


 とまあ、模写についていろいろと語りましたが……

 ぶっちゃけ、模写という練習法については、理屈抜きです。
「いいから、やってみなよ。絶対に効果があるから」
 というたぐいのものです。

 小説(文章)がうまくなるためだったら、努力はいとわない――
 練習の方法さえ教えてくれたら、かならず継続して練習する――

 そんな真摯(しんし)な気持ちで小説修行に励んでいる人は、「模写」という優れた練習法をぜひ試してみてください。
 かならずプラスになりますから。


小説の練習法に関するほかのお話。
日記で、小説を書く練習をする方法
プロット(物語)の作成能力を養う練習法
『自分の言葉』で書く能力を養う文章練習法


更新
2023年11月19日 一部、全角数字を半角数字に変更。
2024年1月4日 記事内の広告を削除。