2018年は、『週刊少年ジャンプ』の創刊50周年――
ジャンプにとって記念の年になるんですね。
今回は、『少年ジャンプ』にまつわるお話を。
『少年ジャンプ』が大雑誌に急成長したとき
集英社が発行する『週刊少年ジャンプ』は、現在、少年マンガ雑誌のトップを走っています。
ですが、1968年に創刊した当時は、少年誌のなかでは後発で、週間で発行する力はなく、月2回刊行の小雑誌でした。
発行部数も10万部ほど。
それが、ある時期を境に、100万部を超える大雑誌へと変貌(へんぼう)します。
少年ジャンプの急成長は、永井豪先生の作品によって
『少年ジャンプ』が急激に大きくなった理由――
それは、永井豪(ながい・ごう)先生の『ハレンチ学園』というマンガが社会問題になったからです。
『ハレンチ学園』は、『少年ジャンプ』の創刊号に読みきりとして掲載されました。
その後、連載となり、およそ4年間つづきます。
ジャンプのなかで、人気はずっと1位だったのですが……
やがてこの作品は、日本じゅうが大騒ぎする社会問題へと発展します。
「エッチなマンガを子供に読ませるなんてけしからん!」
「これは、わるいマンガだ!」
そう言って、PTAや教育委員会が騒ぎはじめたのです。
騒ぎは日本全国に拡大し、『少年ジャンプ』に対する不買運動を起こす県まであらわれます。
ところが――
大人たちが激怒するいっぽうで、『ハレンチ学園』は大ヒット。
『ハレンチ学園』を掲載している『少年ジャンプ』は、不買運動を起こされたにもかかわらず売り上げが急増し、一気に100万部を超える大雑誌に成長します。
心理的リアクタンス(カリギュラ効果)によって、ヒット作が生みだされた?
これは、典型的な「心理的リアクタンス」による現象です。
心理的リアクタンスというのは、「反抗する心理」のこと――
おもに、
「言動を制限される(禁止される)と、反発する心理がおこって、かえってそれをやりたくなる」
というケースに使われる心理学用語です。
『ハレンチ学園』は、掲載当初から人気のあるマンガでした。
でもそれは、発行部数わずか10万部という小雑誌のなかでのことでした。
ところが、教育関係者を中心に日本じゅうの大人が、
「こんなマンガは読んではいけません!」
と声を張りあげたことによって、『ハレンチ学園』は空前の大ヒット作へと飛躍(ひやく)します。
「読んではいけない」と大人が禁止したことによって、少年たちはかえって読みたくなったからです。
それにともない、掲載誌である『少年ジャンプ』も大ヒット。
後発の小雑誌から、一気に少年誌を代表する大雑誌へと成長します。
『ハレンチ学園』は映画化され、計4作品が公開――
1970年には、東京12チャンネル(現在のテレビ東京)でテレビドラマ化――
そのすべてが大ヒットします。
この現象は、
「禁止するとかえって興味がわき、逆効果になる」
という『心理的リアクタンス』の典型的なケースなんですね。
もうひとつの心理的リアクタンス 『ハレンチ学園』はもともとエッチなマンガではなかった?
さらに、この『ハレンチ学園』の騒動は、もうひとつの「心理的リアクタンス」を呼び起こしています。
『ハレンチ学園』というマンガは、性的な描写(エッチなシーン)が問題視され、それが非難の材料になっていました。
ところが実際は、性的な描写はほとんどないマンガだったんですね。
永井豪先生は、こう語っています。
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当時の抗議の中身は「エッチはヤメロ!」一辺倒だったんですが、本当のところ、抗議され出したころの『ハレンチ学園』では全然エッチなことはやってないんです。女の子は肩から上しか見せていませんし、性表現として問題視されるような作品ではなかったと思います。
出典:『永井豪のヴィンテージ漫画館』 永井豪:著 河出書房新社、河出文庫(2015年)
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もともとはエッチな要素のないマンガだったんですね。
ですが、大人たちは「ハレンチ」という言葉のイメージから、勝手に「破廉恥(はれんち)な内容のマンガ」と決めつけて、読みもせずに猛バッシングをおこないます。
そしてこれが、作者の永井豪先生の心理的リアクタンス(反抗心)を呼び起こすことになります。
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だから内容がハレンチになっていくのは、まわりが騒ぎ始めてからなんですよ。そんなに大騒ぎするなら、もっとやってやろうじゃないか、ということですね。エロティックなものはあんまり意識してなかったのに、ボクはヘソ曲がりだから、あんまり周囲が裸ばかりを問題にするので、どんどん露出しちゃえ、ということになっていきました。
出典:『永井豪のヴィンテージ漫画館』
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これも、典型的な「心理的リアクタンス」です。
何も言わなければ永井先生はエッチなシーンを描いたりはしなかったのに、「エッチはやめろ!」と圧力をかけたせいで、本当にエッチなマンガになっていったんですね。
禁止をすると逆効果になる可能性がある
禁止というのは、逆効果になる可能性があります。
人には「心理的リアクタンス」と呼ばれる反抗心があるからです。
人に「やめろ」と命じる場合は、つねにそのことを念頭におかなければなりません。
いまここで禁止を命じたら、逆効果になる可能性がある――
それでも、禁止すべきか?
逆効果になるリスクをおかしてでも、本当に禁止したほうがいいのか?
禁止を命じる前に、かならずそう自問するようにしましょう。
それを心がければ、軽々しく「やめろ」と責め立てたり、禁止によって人を縛りつけるようなことはしなくなります。
日本では、カリギュラ効果と言わずに……
この「禁止すると逆効果になる」という心理的リアクタンスは、
「カリギュラ効果」
という言い方もされています。
アメリカのボストン市で『カリギュラ』という映画の公開を禁止したときに心理的リアクタンスが発生して、大騒動になったからです。
日本の場合は、「カリギュラ効果」と言わずに『ハレンチ学園効果』という言い方をしたほうがいいのかもしれませんね。
こんなにもわかりやすい実例が、日本にはあるのですから。
といっても、心理的リアクタンスによって『ハレンチ学園』が大ヒットしたのは、バッシングにまけることなく、永井豪先生が気丈(きじょう)な姿勢で作品を描きつづけたからであることは言うまでもありません。
すごいよなぁ、永井先生は……
日本じゅうの大人を敵にまわしながら作品を描きつづけるなんて、すごいメンタルの強さだと思います。
『週刊少年ジャンプ』のファンのみなさんは、永井先生に感謝しないといけませんよね。
人気雑誌の地位を確立したいまのジャンプがあるのは、もとをたどると、永井豪先生のおかげなんですから。
※ダイナミック企画の公式サイト
→ダイナミック企画株式会社 オフィシャルサイト
※永井豪先生の記念館の公式サイト
→永井豪記念館
更新
2019年6月10日 文章表現を一部改訂。
2024年1月4日 記事内の広告を削除。