今回は、
「小説におけるモノローグの表現」
について、お話しいたします。
小説のモノローグ表現
モノローグは、もとは「独白(ひとり言)」という意味の言葉です。
演劇や映画では、「ひとり芝居」という意味で使われています。
役者さんが、相手がいない状態で、ひとりで台詞(せりふ)を言う演技――そのことを指しているんですね。
小説やマンガにおけるモノローグは、また少し意味合いが変わってきます。
簡潔に言うと、
「(口にださずに)心のなかで語っている台詞」
のことを指しています。
ページ内目次
マンガにおけるモノローグとは?
マンガの場合は、
↑こんな感じの、モクモクっとした吹き出しを使い、なかに書く文字を通常の台詞よりも細字のフォント(書体)にすることによって表現していますね。
そうです、あれがモノローグです(笑
小説におけるモノローグとは?
「なんだ、要するに心理描写のことか」
と思った人もいるかもしれませんが――
たしかにその通りなのですが、ひと言で「心理描写」と言ってしまうと、もっと広い意味になります。
たとえば、『スピードでパワーファイターに勝つ』という作品には、俊矢(としや) というキャラクターが登場するのですが――
※『スピードでパワーファイターに勝つ』は長編ボクシング小説です。WEB小説として『月尾ボクシングジム物語』というサイトで公開しています。
→目次 『スピードでパワーファイターに勝つ』
俊矢は、同期で入門したカツオに敬意をいだいており、「カツオさん」と呼んでいます。
俊矢の心理を描写しているシーンに、
↓こういう表現があります。
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まさかこんな男がやってくるとは思ってもみなかった。
礼儀を知らない男だった。
カツオは以前、「ボクサーは現代の戦士なんだ」と俊矢に語ったことがある。しかし、大賀烈(おおが れつ)には戦士としての礼節などまったくない。
礼儀を知らない男だった。
カツオは以前、「ボクサーは現代の戦士なんだ」と俊矢に語ったことがある。しかし、大賀烈(おおが れつ)には戦士としての礼節などまったくない。
※『スピードでパワーファイターに勝つ』 第一章 このスパーは、おそらくアレだ より抜粋。
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これは俊矢の心理描写ですが、俊矢のモノローグ(心のなかの声)ではありません。
俊矢の心理を、客観的な視点で描写しています。
俊矢の語り口調であれば「カツオさん」と言うはずのところを「カツオ」と表記しているので、文章に敏感な人は「俊矢のモノローグではない」とすぐにわかると思います。
さらに次へ進むと、このような表現になっています。
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この相手は、ボクシングを純粋に愛しているカツオさんにふさわしくない――
俊矢はそう思った。
カツオと拳(こぶし)をまじえる価値のない男だと思った。
だが、試合形式で闘うことになってしまった。
こうなったからには何がなんでも勝ってほしい。
俊矢はそう思った。
カツオと拳(こぶし)をまじえる価値のない男だと思った。
だが、試合形式で闘うことになってしまった。
こうなったからには何がなんでも勝ってほしい。
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ここも俊矢の心理を描写している場面ですが、このなかの、
この相手は、ボクシングを純粋に愛しているカツオさんにふさわしくない
という部分が、俊矢のモノローグです。
ここだけ俊矢の語り口調(「カツオさん」という言い方)になっているので、文章に敏感な人は感覚的に気づくことができると思います。
*
モノローグというのは、声にはだしていないけれど「登場人物の台詞」なんですね。
ですので、登場人物が心のなかで実際に語っている台詞として描写されたところが「モノローグ」になります。
文章のなかにモノローグをどのように挿入するのか、という問題
一人称形式で小説を書いた場合は、地の文(台詞以外の説明部分、シナリオで言うト書きのところ)がすべて視点となっている人物のモノローグのようなかたちになります。
※こちらをご参考ください。
→一人称形式(一人称一視点)で小説を書くメリット
作品全体がモノローグですので、一人称小説の場合は、
「どうやってモノローグを挿入して表現するのか?」
という問題はありません。
ですが、三人称形式の小説ではこの問題が発生します。
丸括弧で表現する 〈モノローグの描写法1〉
モノローグを表現する手段として、
「丸括弧(まるかっこ)を使う」
という方法があります。
通常の口にだして言う台詞を、
「 」 かぎ括弧
で表現するのとおなじ感覚で、
口にださず心のなかで言う台詞を、
( ) 丸括弧
で表現する、というやり方です。
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(この相手は、ボクシングを純粋に愛しているカツオさんにふさわしくない)
俊矢はそう思った。
カツオと拳をまじえる価値のない男だと思った。
だが、試合形式で闘うことになってしまった。
こうなったからには何がなんでも勝ってほしい。
俊矢はそう思った。
カツオと拳をまじえる価値のない男だと思った。
だが、試合形式で闘うことになってしまった。
こうなったからには何がなんでも勝ってほしい。
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この表現法、1980年代まではよく見かけた手法なのですが、近年では使う人がめっきり少なくなりましたね。
現在、この手法を用いる作家は少なくなりましたが、モノローグを表現する手段として正当な表現法です。
丸括弧を使うと、モノローグと地の文がはっきりと区別されるので、読者にとってわかりやすいというメリットがあります。
また、マンガから小説にコンバート(転向)して創作活動をしている人には、お勧めの方法です。
↑マンガではこの部分にあたるところを ( ) で表現すればいいだけなので、マンガで培(つちか)った表現力をそのまま活用することができます。
地の文のなかにモノローグを挿入する 〈モノローグの描写法2〉
現代の作家の多くは、丸括弧を使わずにモノローグを描写しています。
「三人称形式で書かれた地の文のなかに、モノローグ(登場人物の心の声)をいれる」
というのが、多くの作家が用いている方法です。
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カツオは返事をしながらも、やはり不思議に思っていた。
セコンドが指示をださないってどういうことだろう? オレのことを信頼してくれてるってことなのか?
……まあ、どっちにしたって、オレはオレのボクシングをやるだけだ。
オレにはスピードがある。オレのスピードをもってすれば、誰が相手だろうと絶対に勝てる!
カツオはそう自分に言い聞かせ、意識を闘いに集中させた。
内側から闘志がみなぎってくるのを感じる。
セコンドが指示をださないってどういうことだろう? オレのことを信頼してくれてるってことなのか?
……まあ、どっちにしたって、オレはオレのボクシングをやるだけだ。
オレにはスピードがある。オレのスピードをもってすれば、誰が相手だろうと絶対に勝てる!
カツオはそう自分に言い聞かせ、意識を闘いに集中させた。
内側から闘志がみなぎってくるのを感じる。
※濃い青文字で拡張している部分が、カツオのモノローグ。
※『スピードでパワーファイターに勝つ』 第一章 このスパーは、おそらくアレだ より抜粋。
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文語体(書き言葉)で書かれた地の文に、口語体(登場人物の語り口調)で書かれた心の声がはいり込んでくる――
そこに文章のおもしろみや、表現上の工夫があらわれてきます。
もちろん、あるていどの文章力が必要です。
文語体(書き言葉)で書かれた文章のなかに、部分的に口語体(話し言葉)の文がはいるので、一時的に文体をみだすことになります。
そのため文章力が未熟だと、読んでいて違和感のある、おかしな文章になってしまう可能性があるんですね。
文章力に自信がない人は、丸括弧で表現したほうが無難(ぶなん)かもしれませんね。
とは言うものの――
これ、ある意味、作家の腕の見せどころなんですよね(笑
「地の文のなかにモノローグをいれる」というやり方は、文章に変化をつけることができるので、おもしろみや個性がでます。
すでに文章力を身につけている人は、こちらの方法を選択したほうが、より能力を発揮しやすいと思います。
知らなくても書ける人は書ける! ……でも、やっぱり知っていたほうがいい
今回お話しした「モノローグ」の技法は、ぶっちゃけ、知らなくても問題なく表現できる人もいます。
センスがいい人は、知識がなくても心理描写の一環としてモノローグ表現を完璧にこなしてしまうので、「知らなくても書ける」と言えばその通りです。
ですが、無自覚なまま書くのではなく、意識的に表現できるようになると、文章表現の幅(はば)がひろがります。
あなたの物語をよりおもしろく表現するための参考になさってみてください。
※よろしければこちらもご参考ください
→一人称形式(一人称一視点)で小説を書くメリット
→文章テクニック(ラベル)
→小説作法(ラベル)
更新
2024年7月21日 ページ内目次を追加。