三人称形式で小説を書く場合、「視点」が成否をわけることが多々あります。
今回は「視点をあやつる」というお話のエピソード0(前段階)として、
「三人称形式とは?」
について、お話しいたします。
三人称小説とは?
三人称形式というのは、地の文(会話以外の説明の文、シナリオでいうト書きのところ)において、登場人物の全員が人物名、もしくは代名詞で表現されている書き方のことです。
たとえば、
↓これは一人称形式です。
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私は、文芸部の部室に集まった新入部員にむかって言った。
「小説の視点について、初心者にわかるように説明するのはかなりむずかしいな……私自身、誰かから教えてもらったわけじゃなく『書き覚えろ』の精神で自得したのだからね」
新入部員たちは、いきなり顧問に突き放されたと思ったのか、不安げな表情を浮かべている。
「小説の視点について、初心者にわかるように説明するのはかなりむずかしいな……私自身、誰かから教えてもらったわけじゃなく『書き覚えろ』の精神で自得したのだからね」
新入部員たちは、いきなり顧問に突き放されたと思ったのか、不安げな表情を浮かべている。
私はいささか心苦しくなったが、しかし小説の修行は「書き覚えろ」が原則なのだ。あまい顔はできない。
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地の文が、登場人物の一人称(私)で表現されているので、一人称形式になります。
そして、
↓この場合は三人称形式になります。
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ホンジョーは、文芸部の部室に集まった新入部員にむかって言った。
「小説の視点について、初心者にわかるように説明するのはかなりむずかしいな……私自身、誰かから教えてもらったわけじゃなく『書き覚えろ』の精神で自得したのだからね」
「小説の視点について、初心者にわかるように説明するのはかなりむずかしいな……私自身、誰かから教えてもらったわけじゃなく『書き覚えろ』の精神で自得したのだからね」
新入部員たちは、いきなり顧問に突き放されたと思ったのか、不安げな表情を浮かべている。
ホンジョーはいささか心苦しくなったが、しかし小説の修行は「書き覚えろ」が原則なのだ。あまい顔はできない。
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地の文が、登場人物の一人称(私)ではなく、名前(ホンジョー)で表現されていますね。
誰かの主観(私、俺、僕など)で書くのではなく、すべての登場人物を名前(もしくは代名詞)で書いたもの――
それが、三人称形式です。
三人称形式は客観視点が基本
三人称形式の基本は、客観視点です。
登場人物をみな三人称で表現するため、登場人物たちを外側から見ている視点――映画やドラマでいうところの「カメラの視点」になるんですね。
とは言うものの――
たしかに基本は客観視点(カメラ視点)なのですが、全編を客観視点だけで表現している作品はほとんどありません。
おそらく、ダシール・ハメットのハードボイルド小説(探偵小説)ぐらいだと思います。
三人称形式のメリットは、視点が自在であること
三人称形式は、客観視点(カメラ視点)が基本になるのですが、それだけで小説を完成させるのは困難――というより、ふつうはできません。
場面に応じて登場人物の視点で描写するのが、一般的な三人称小説の書き方です。
そうしなければ
「登場人物の心理や思惑(おもわく)」
「このシーンではどの登場人物に感情移入して読むのか」
そういったことを、読者に伝えることができないからです。
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一人称形式の場合は、特定の登場人物の主観(私)なので、視点がひとつに固定されています。
逆を言うと、「私」以外の視点からは描写できない、という制約があるんですね。
三人称形式は、客観視点が基本です。
客観視点は「カメラ視点」です。
それは、誰の視点でもない「中立の視点」です。
中立というのは、
「どこにでも移動することができる」
という性質をもっています。
ですので、三人称形式は「中立の視点」から、あらゆる登場人物の視点へと移動することができるんですね。
つまり、
「場面や状況に応じて、いろんな人物に視点を切り替えることができる」
ということです。
物語を表現するうえで、それはとても大きなメリットになります。
小説の創作を成功させるには、「視点」に対する理解が不可欠
とは言うものの――
皮肉なことではあるのですが、
「このメリットの大きさのために失敗してしまう」
ということが、小説ではたびたびあります(苦笑
つまり、
「視点を自由に動かせるがゆえに、視点がブレすぎてしまう」
ということです。
小説を書く人は、遅かれ早かれ「視点」という問題に直面します。
小説の創作を成功させるには、「小説における視点」を、しっかりと理解しておく必要があります。
次のお話を読む
※「視点をあやつる」に関するほかのお話
→「中立の視点」の書き方 三人称形式の基本は客観視点
→「神の視点」という小説の表現法
→三人称小説で、登場人物の視点で描写する方法
→「登場人物の視点」と「中立の視点」を組み合わせて書けるのが三人称形式
→三人称形式で、複数の登場人物の視点をあやつる
更新
2018年11月16日、23日、 12月1日、7日、14日 リンクを追加。
2024年1月4日 記事内の広告を削除。記述を一部変更。