2018年11月9日金曜日

三人称形式とは? いまさら人に聞けない小説の基本


 三人称形式で小説を書く場合、「視点」が成否をわけることが多々あります。

 今回は「視点をあやつる」というお話のエピソード0(前段階)として、
「三人称形式とは?」
 について、お話しいたします。


三人称小説とは?


 三人称形式というのは、地の文(会話以外の説明の文、シナリオでいうト書きのところ)において、登場人物の全員が人物名、もしくは代名詞で表現されている書き方のことです。

 たとえば、
 ↓これは一人称形式です。

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 は、文芸部の部室に集まった新入部員にむかって言った。
「小説の視点について、初心者にわかるように説明するのはかなりむずかしいな……私自身、誰かから教えてもらったわけじゃなく『書き覚えろ』の精神で自得したのだからね」

 新入部員たちは、いきなり顧問に突き放されたと思ったのか、不安げな表情を浮かべている。

 はいささか心苦しくなったが、しかし小説の修行は「書き覚えろ」が原則なのだ。あまい顔はできない。
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 地の文が、登場人物の一人称(私)で表現されているので、一人称形式になります。


 そして、
 ↓この場合は三人称形式になります。

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 ホンジョーは、文芸部の部室に集まった新入部員にむかって言った。
「小説の視点について、初心者にわかるように説明するのはかなりむずかしいな……私自身、誰かから教えてもらったわけじゃなく『書き覚えろ』の精神で自得したのだからね」

 新入部員たちは、いきなり顧問に突き放されたと思ったのか、不安げな表情を浮かべている。

 ホンジョーはいささか心苦しくなったが、しかし小説の修行は「書き覚えろ」が原則なのだ。あまい顔はできない。
************

 地の文が、登場人物の一人称(私)ではなく、名前(ホンジョー)で表現されていますね。

 誰かの主観(私、俺、僕など)で書くのではなく、すべての登場人物を名前(もしくは代名詞)で書いたもの――
 それが、三人称形式です。


三人称形式は客観視点が基本


 三人称形式の基本は、客観視点です。
 登場人物をみな三人称で表現するため、登場人物たちを外側から見ている視点――映画やドラマでいうところの「カメラの視点」になるんですね。

 とは言うものの――

 たしかに基本は客観視点(カメラ視点)なのですが、全編を客観視点だけで表現している作品はほとんどありません。
 おそらく、ダシール・ハメットのハードボイルド小説(探偵小説)ぐらいだと思います。


三人称形式のメリットは、視点が自在であること


 三人称形式は、客観視点(カメラ視点)が基本になるのですが、それだけで小説を完成させるのは困難――というより、ふつうはできません。

 場面に応じて登場人物の視点で描写するのが、一般的な三人称小説の書き方です。

 そうしなければ
「登場人物の心理や思惑(おもわく)」
「このシーンではどの登場人物に感情移入して読むのか」
 そういったことを、読者に伝えることができないからです。


 一人称形式の場合は、特定の登場人物の主観(私)なので、視点がひとつに固定されています。
 逆を言うと、「私」以外の視点からは描写できない、という制約があるんですね。


 三人称形式は、客観視点が基本です。
 客観視点は「カメラ視点」です。
 それは、誰の視点でもない「中立の視点」です。

 中立というのは、
「どこにでも移動することができる」
 という性質をもっています。

 ですので、三人称形式は「中立の視点」から、あらゆる登場人物の視点へと移動することができるんですね。

 つまり、
「場面や状況に応じて、いろんな人物に視点を切り替えることができる」
 ということです。

 物語を表現するうえで、それはとても大きなメリットになります。


小説の創作を成功させるには、「視点」に対する理解が不可欠


 とは言うものの――

 皮肉なことではあるのですが、
「このメリットの大きさのために失敗してしまう」
 ということが、小説ではたびたびあります(苦笑

 つまり、
「視点を自由に動かせるがゆえに、視点がブレすぎてしまう」
 ということです。

 小説を書く人は、遅かれ早かれ「視点」という問題に直面します。

 小説の創作を成功させるには、「小説における視点」を、しっかりと理解しておく必要があります。

 次のお話を読む


「視点をあやつる」に関するほかのお話
「中立の視点」の書き方 三人称形式の基本は客観視点
「神の視点」という小説の表現法
三人称小説で、登場人物の視点で描写する方法
「登場人物の視点」と「中立の視点」を組み合わせて書けるのが三人称形式
三人称形式で、複数の登場人物の視点をあやつる


更新
2018年11月16日、23日、 12月1日、7日、14日 リンクを追加。
2024年1月4日 記事内の広告を削除。記述を一部変更。