2018年12月7日金曜日

「登場人物の視点」と「中立の視点」を組み合わせて書けるのが三人称形式


 今回は、
「『登場人物の視点』と『中立の視点』を組み合わせて書く」
 について、お話しいたします。


「登場人物の視点」と「中立の視点」を組み合わせて書く


 視点の使い方は、
「1シーン、1視点」
 が基本です。

 つまり、
「いちど誰かの視点で書きはじめたら、シーンが切り替わるまではその登場人物の視点で書く」
 ということです。

あくまでも基本であり、絶対に守らなければいけないわけではありません。


 登場人物の視点で書きはじめたら、ほかの視点からは描写しないのが原則なのですが――

 ただし、中立の視点(もしくは神の視点)については別です。

 三人称小説では、「登場人物の視点」と「中立の視点」を組み合わせたり、状況に応じて切り替えて書くことができるんですね。


視点となっている人物が見える――それが三人称形式の特徴


 一人称小説では、視点となっている人物の姿は描写できません。
 人は、自分の姿が見えないからです。

 主観――すなわち「自分自身のことが見えない位置」からの描写なので、視点となっている人物の動作や表情などは表現されません。

 ゲームをやる人であれば、
「FPSのようなもの」
 と言えば、わかりやすいかもしれませんね(笑

FPSとは、ファーストパーソン・シューティングゲームのこと――日本語に訳すと「本人(一人称)視点シューティングゲーム」になります。


 いっぽう、三人称小説の場合は、視点となっている人物の姿を描写しても、まったく問題ありません。
 ちゃんと文章として成立します。

 登場人物の視点(立場)で描写されているシーンでも、三人称形式というのは「客観」が基本であるため、登場人物の姿を描写することが可能です。

 つまり、
「物語世界を登場人物の立場で見ているときでも、中立の視点(カメラ視点)で、その登場人物の動作や表情などを映しだすことができる」
 ということです。

 ゲームをやる人であれば、
「TPSのようなもの」
 と言えば、わかりやすいと思います(笑

TPSとは、サードパーソン・シューティングゲームのこと――「三人称視点シューティングゲーム」と訳されます。


無意識的なアクション(動作)を表現する 〈中立視点の組み合わせ例①〉


 たとえば、『スピードでパワーファイターに勝つ』という作品に、
 ↓このような表現があります。

************
「そうだ、烈! それでいい!」
 今度こそ、勝った――
 片倉会長の顔に、会心(かいしん)の笑みがこぼれた。

第一章 目は輝きをうしなっていない より抜粋。
『スピードでパワーファイターに勝つ』は長編ボクシング小説です。WEB小説として『月尾ボクシングジム物語』というサイトで公開しています。
目次 『スピードでパワーファイターに勝つ』
************


 ここは、「片倉(かたくら)会長」の視点で描写しているシーンです。

今度こそ、勝った

 という片倉会長の心理描写の記述があるので、彼の視点であることが感覚的にわかると思います。


 ですが、最後の一文――

片倉会長の顔に、会心の笑みがこぼれた

 これは、片倉会長の視点ではありません。
 片倉会長の一人称(私)に変換してみると、

私の顔に、改心の笑みがこぼれた

 と、なんだか不自然な文になってしまいます。

「笑みがこぼれる」
「笑みが浮かぶ」
 というのは無意識的な表情であり、本人が気づいていないことだからです。

 無意識的な表情や仕草といったことは、当人の視点からは描写できません。

 最後の一文を片倉会長の視点で表現する場合は、「笑みがこぼれた」という表現はできませんので、

片倉会長は、確信した

 といった感じになると思います。


 もちろん、それでもまちがいではないのですが……

 ここは「語るより見せろ」――確信した、ということを登場人物の演技で表現したかったので、片倉会長にニヤけてもらうことにしました(笑

 その場合、片倉会長の視点では表現できませんので、ここだけ「中立の視点」で描写しています。

 こういうやり方ができるのが、三人称形式の特徴でありメリットなんですね。


設定を正確に伝える 〈中立視点の組み合わせ例②〉


 以前に、ネット上で『可変人間サーガ』という異世界ファンタジー小説を公開していたことがあるのですが――
現在は公開していません。

 作中に、
 ↓このようなシーンがあります。

************
 サニーシャは、はっとひらめいた。
「そうだ、あれを使おう!」

 サニーシャは荷袋の中からカードのセットを取り出し、ティアがオカリナづくりに使っていたテーブルに着いた。
 魔法陣の描かれたシートをテーブルの上に置き、下方に64枚のカードを横一列に並べる。

 これは「フルウィア・カード」と呼ばれているもので、『ノーフォーム聖伝』の逸話や伝承をモチーフにした絵がカードに記されている。
 八霊導使(はち・れいどうし)のひとり聖フルウィアによって考案されたと伝えられており、占術の道具として魔術師に広く用いられていた。

 サニーシャは、呪文の詠唱(えいしょう)を始めた。

 魔術は一般に思われているような神秘的なものではない。もっと論理的で、根拠のあるものなのだ。
 特定の言葉や文字、図形には特殊な現象を引き起こす力があることに先人(せんじん)たちは気づき、さまざまな実験の結果、その方法と効力を知った。
 魔術とは、いわば発見と発明の集大成なのである。

 ――〈中略〉――

「……カードよ、わが愛弟子ティアについて真実を示せ」
 サニーシャは呪文を唱え、魔術を発動させた。
 並べられたカードの中から5枚、テーブルをすべるようにして列を抜け出していく。
 5枚のカードは、それぞれ魔法陣の四方と中央に移動した。

一般的には「魔陣」は誤記であり「魔陣」が正しいとされていますが、ファンタジー感をだすためにこの作品ではあえて「魔法陣」と表記しています。
************


 このシーンは女性魔術師サニーシャの視点で描写しているのですが、すべての文をサニーシャの視点で書いているわけではありません。
 濃い青文字の部分――魔術に関する説明の部分は中立の視点で書いています。

 この部分を、サニーシャの視点(立場)で書いた場合は、正確な情報(設定どおりの情報)を読者に伝えることができません。
 サニーシャの主観で語るため、彼女の「魔術に対する考え方」で説明することになるからです。

 サニーシャは、魔術の可能性を追求するあまり、人の道を踏みはずしてしまった過去があります。
 そのため、魔術師でありながら魔術に対して否定的な感情をいだいています。
 ですので、サニーシャの視点(立場)で説明をすると、魔術を否定的にとらえた偏(かたよ)りのある情報になってしまうんですね。

 そのような事情により、説明のところは「中立の視点」で、設定どおりの正確な情報を書いています。

「登場人物の視点」で描写している最中でも、設定や状況などを説明する場合は「中立の視点」で書く――

 そんなやり方ができるのも、三人称形式ならではなんですね。


ここまでくれば「三人称形式の書き方」が身についている


「登場人物の視点」と「中立の視点」を組み合わせ、状況に応じて切り替えながら書く――
 それが意図的にできるようになったら、三人称形式の書き方が身についていると言えます。

 そして、この書き方ができるようになれば、
「複数の登場人物の視点をあやつる」
 ということも可能になります。

 次のお話を読む


視点に関するほかのお話
三人称形式とは? いまさら人に聞けない小説の基本
「中立の視点」の書き方 三人称形式の基本は客観視点
「神の視点」という小説の表現法
三人称小説で、登場人物の視点で描写する方法
三人称形式で、複数の登場人物の視点をあやつる

「主人公ではなく、ほかの登場人物の視点で描写する」という小説表現法
一人称形式(一人称一視点)で小説を書くメリット

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更新
2018年12月11日 例文を短縮するため、一部中略に。
2018年12月14日 リンクを追加。