今回は、
「『登場人物の視点』と『中立の視点』を組み合わせて書く」
について、お話しいたします。
「登場人物の視点」と「中立の視点」を組み合わせて書く
視点の使い方は、
「1シーン、1視点」
が基本です。
つまり、
「いちど誰かの視点で書きはじめたら、シーンが切り替わるまではその登場人物の視点で書く」
ということです。
※あくまでも基本であり、絶対に守らなければいけないわけではありません。
登場人物の視点で書きはじめたら、ほかの視点からは描写しないのが原則なのですが――
ただし、中立の視点(もしくは神の視点)については別です。
三人称小説では、「登場人物の視点」と「中立の視点」を組み合わせたり、状況に応じて切り替えて書くことができるんですね。
ページ内目次
●視点となっている人物が見える――それが三人称形式の特徴
●無意識的なアクション(動作)を表現する 〈中立の視点の組み合わせ例①〉
●設定を正確に伝える 〈中立の視点の組み合わせ例②〉
・ここまでくれば「三人称形式の書き方」が身についている
一人称小説では、視点となっている人物の姿は描写できません。
人は、自分の姿が見えないからです。
主観――すなわち「自分自身のことが見えない位置」からの描写なので、視点となっている人物の動作や表情などは表現されません。
ゲームをやる人であれば、
「FPSのようなもの」
と言えば、わかりやすいかもしれませんね(笑
※FPSとは、ファーストパーソン・シューティングゲームのこと――日本語に訳すと「本人(一人称)視点シューティングゲーム」になります。
いっぽう、三人称小説の場合は、視点となっている人物の姿を描写しても、まったく問題ありません。
ちゃんと文章として成立します。
登場人物の視点(立場)で描写されているシーンでも、三人称形式というのは「客観」が基本であるため、登場人物の姿を描写することが可能です。
つまり、
「物語世界を登場人物の立場で見ているときでも、中立の視点(カメラ視点)で、その登場人物の動作や表情などを映しだすことができる」
ということです。
ゲームをやる人であれば、
「TPSのようなもの」
と言えば、わかりやすいと思います(笑
※TPSとは、サードパーソン・シューティングゲームのこと――「三人称視点シューティングゲーム」と訳されます。
たとえば、『スピードでパワーファイターに勝つ』という作品に、
↓このような表現があります。
※第一章 目は輝きをうしなっていない より抜粋。
※『スピードでパワーファイターに勝つ』は長編ボクシング小説です。WEB小説として『月尾ボクシングジム物語』というサイトで公開しています。
→目次 『スピードでパワーファイターに勝つ』
ここは、「片倉(かたくら)会長」の視点で描写しているシーンです。
という片倉会長の心理描写の記述があるので、彼の視点であることが感覚的にわかると思います。
ですが、最後の一文――
これは、片倉会長の視点ではありません。
片倉会長の一人称(私)に変換してみると、
と、なんだか不自然な文になってしまいます。
「笑みがこぼれる」
「笑みが浮かぶ」
というのは無意識的な表情であり、本人が気づいていないことだからです。
無意識的な表情や仕草といったことは、当人の視点からは描写できません。
最後の一文を片倉会長の視点で表現する場合は、「笑みがこぼれた」という表現はできませんので、
といった感じになると思います。
もちろん、それでもまちがいではないのですが……
ここは「語るより見せろ」――確信した、ということを登場人物の演技で表現したかったので、片倉会長にニヤけてもらうことにしました(笑
その場合、片倉会長の視点では表現できませんので、ここだけ「中立の視点」で描写しています。
こういうやり方ができるのが、三人称形式の特徴でありメリットなんですね。
以前に、ネット上で『可変人間サーガ』という異世界ファンタジー小説を公開していたことがあるのですが――
※現在は公開していません。
作中に、
↓このようなシーンがあります。
サニーシャは荷袋の中からカードのセットを取り出し、ティアがオカリナづくりに使っていたテーブルに着いた。
魔法陣の描かれたシートをテーブルの上に置き、下方に64枚のカードを横一列に並べる。
これは「フルウィア・カード」と呼ばれているもので、『ノーフォーム聖伝』の逸話や伝承をモチーフにした絵がカードに記されている。
八霊導使(はち・れいどうし)のひとり聖フルウィアによって考案されたと伝えられており、占術の道具として魔術師に広く用いられていた。
サニーシャは、呪文の詠唱(えいしょう)を始めた。
魔術は一般に思われているような神秘的なものではない。もっと論理的で、根拠のあるものなのだ。
特定の言葉や文字、図形には特殊な現象を引き起こす力があることに先人(せんじん)たちは気づき、さまざまな実験の結果、その方法と効力を知った。
魔術とは、いわば発見と発明の集大成なのである。
――〈中略〉――
「……カードよ、わが愛弟子ティアについて真実を示せ」
サニーシャは呪文を唱え、魔術を発動させた。
並べられたカードの中から5枚、テーブルをすべるようにして列を抜け出していく。
5枚のカードは、それぞれ魔法陣の四方と中央に移動した。
※一般的には「魔法陣」は誤記であり「魔方陣」が正しいとされていますが、ファンタジー感をだすためにこの作品ではあえて「魔法陣」と表記しています。
このシーンは女性魔術師サニーシャの視点で描写しているのですが、すべての文をサニーシャの視点で書いているわけではありません。
濃い青文字の部分――魔術に関する説明の部分は中立の視点で書いています。
この部分を、サニーシャの視点(立場)で書いた場合は、正確な情報(設定どおりの情報)を読者に伝えることができません。
サニーシャの主観で語るため、彼女の「魔術に対する考え方」で説明することになるからです。
サニーシャは、魔術の可能性を追求するあまり、人の道を踏みはずしてしまった過去があります。
そのため、魔術師でありながら魔術に対して否定的な感情をいだいています。
ですので、サニーシャの視点(立場)で説明をすると、魔術を否定的にとらえた偏(かたよ)りのある情報になってしまうんですね。
そのような事情により、説明のところは「中立の視点」で、設定どおりの正確な情報を書いています。
「登場人物の視点」で描写している最中でも、設定や状況などを説明する場合は「中立の視点」で書く――
そんなやり方ができるのも、三人称形式ならではなんですね。
「登場人物の視点」と「中立の視点」を組み合わせ、状況に応じて切り替えながら書く――
それが意図的にできるようになったら、三人称形式の書き方が身についていると言えます。
そして、この書き方ができるようになれば、
「複数の登場人物の視点をあやつる」
ということも可能になります。
次のお話を読む
※視点に関するほかのお話
→三人称形式とは? いまさら人に聞けない小説の基本
→「中立の視点」の書き方 三人称形式の基本は客観視点
→「神の視点」という小説の表現法
→三人称小説で、登場人物の視点で描写する方法
→三人称形式で、複数の登場人物の視点をあやつる
→「主人公ではなく、ほかの登場人物の視点で描写する」という小説表現法
→一人称形式(一人称一視点)で小説を書くメリット
※よろしければこちらもご参考ください
→文章のテクニック (ラベル)
→小説作法(小説の書き方) (ラベル)
更新
2018年12月11日 例文を短縮するため、一部中略に。
2018年12月14日 リンクを追加。
●無意識的なアクション(動作)を表現する 〈中立の視点の組み合わせ例①〉
●設定を正確に伝える 〈中立の視点の組み合わせ例②〉
・ここまでくれば「三人称形式の書き方」が身についている
視点となっている人物が見える――それが三人称形式の特徴
一人称小説では、視点となっている人物の姿は描写できません。
人は、自分の姿が見えないからです。
主観――すなわち「自分自身のことが見えない位置」からの描写なので、視点となっている人物の動作や表情などは表現されません。
ゲームをやる人であれば、
「FPSのようなもの」
と言えば、わかりやすいかもしれませんね(笑
※FPSとは、ファーストパーソン・シューティングゲームのこと――日本語に訳すと「本人(一人称)視点シューティングゲーム」になります。
*
いっぽう、三人称小説の場合は、視点となっている人物の姿を描写しても、まったく問題ありません。
ちゃんと文章として成立します。
登場人物の視点(立場)で描写されているシーンでも、三人称形式というのは「客観」が基本であるため、登場人物の姿を描写することが可能です。
つまり、
「物語世界を登場人物の立場で見ているときでも、中立の視点(カメラ視点)で、その登場人物の動作や表情などを映しだすことができる」
ということです。
ゲームをやる人であれば、
「TPSのようなもの」
と言えば、わかりやすいと思います(笑
※TPSとは、サードパーソン・シューティングゲームのこと――「三人称視点シューティングゲーム」と訳されます。
無意識的なアクション(動作)を表現する 〈中立視点の組み合わせ例①〉
たとえば、『スピードでパワーファイターに勝つ』という作品に、
↓このような表現があります。
************
「そうだ、烈! それでいい!」
今度こそ、勝った――
片倉会長の顔に、会心(かいしん)の笑みがこぼれた。
今度こそ、勝った――
片倉会長の顔に、会心(かいしん)の笑みがこぼれた。
※第一章 目は輝きをうしなっていない より抜粋。
※『スピードでパワーファイターに勝つ』は長編ボクシング小説です。WEB小説として『月尾ボクシングジム物語』というサイトで公開しています。
→目次 『スピードでパワーファイターに勝つ』
************
ここは、「片倉(かたくら)会長」の視点で描写しているシーンです。
今度こそ、勝った
という片倉会長の心理描写の記述があるので、彼の視点であることが感覚的にわかると思います。
ですが、最後の一文――
片倉会長の顔に、会心の笑みがこぼれた
これは、片倉会長の視点ではありません。
片倉会長の一人称(私)に変換してみると、
私の顔に、改心の笑みがこぼれた
と、なんだか不自然な文になってしまいます。
「笑みがこぼれる」
「笑みが浮かぶ」
というのは無意識的な表情であり、本人が気づいていないことだからです。
無意識的な表情や仕草といったことは、当人の視点からは描写できません。
最後の一文を片倉会長の視点で表現する場合は、「笑みがこぼれた」という表現はできませんので、
片倉会長は、確信した
といった感じになると思います。
もちろん、それでもまちがいではないのですが……
ここは「語るより見せろ」――確信した、ということを登場人物の演技で表現したかったので、片倉会長にニヤけてもらうことにしました(笑
その場合、片倉会長の視点では表現できませんので、ここだけ「中立の視点」で描写しています。
こういうやり方ができるのが、三人称形式の特徴でありメリットなんですね。
設定を正確に伝える 〈中立視点の組み合わせ例②〉
以前に、ネット上で『可変人間サーガ』という異世界ファンタジー小説を公開していたことがあるのですが――
※現在は公開していません。
作中に、
↓このようなシーンがあります。
************
サニーシャは、はっとひらめいた。
「そうだ、あれを使おう!」
「そうだ、あれを使おう!」
サニーシャは荷袋の中からカードのセットを取り出し、ティアがオカリナづくりに使っていたテーブルに着いた。
魔法陣の描かれたシートをテーブルの上に置き、下方に64枚のカードを横一列に並べる。
これは「フルウィア・カード」と呼ばれているもので、『ノーフォーム聖伝』の逸話や伝承をモチーフにした絵がカードに記されている。
八霊導使(はち・れいどうし)のひとり聖フルウィアによって考案されたと伝えられており、占術の道具として魔術師に広く用いられていた。
サニーシャは、呪文の詠唱(えいしょう)を始めた。
魔術は一般に思われているような神秘的なものではない。もっと論理的で、根拠のあるものなのだ。
特定の言葉や文字、図形には特殊な現象を引き起こす力があることに先人(せんじん)たちは気づき、さまざまな実験の結果、その方法と効力を知った。
魔術とは、いわば発見と発明の集大成なのである。
――〈中略〉――
「……カードよ、わが愛弟子ティアについて真実を示せ」
サニーシャは呪文を唱え、魔術を発動させた。
並べられたカードの中から5枚、テーブルをすべるようにして列を抜け出していく。
5枚のカードは、それぞれ魔法陣の四方と中央に移動した。
※一般的には「魔法陣」は誤記であり「魔方陣」が正しいとされていますが、ファンタジー感をだすためにこの作品ではあえて「魔法陣」と表記しています。
************
このシーンは女性魔術師サニーシャの視点で描写しているのですが、すべての文をサニーシャの視点で書いているわけではありません。
濃い青文字の部分――魔術に関する説明の部分は中立の視点で書いています。
この部分を、サニーシャの視点(立場)で書いた場合は、正確な情報(設定どおりの情報)を読者に伝えることができません。
サニーシャの主観で語るため、彼女の「魔術に対する考え方」で説明することになるからです。
サニーシャは、魔術の可能性を追求するあまり、人の道を踏みはずしてしまった過去があります。
そのため、魔術師でありながら魔術に対して否定的な感情をいだいています。
ですので、サニーシャの視点(立場)で説明をすると、魔術を否定的にとらえた偏(かたよ)りのある情報になってしまうんですね。
そのような事情により、説明のところは「中立の視点」で、設定どおりの正確な情報を書いています。
「登場人物の視点」で描写している最中でも、設定や状況などを説明する場合は「中立の視点」で書く――
そんなやり方ができるのも、三人称形式ならではなんですね。
ここまでくれば「三人称形式の書き方」が身についている
「登場人物の視点」と「中立の視点」を組み合わせ、状況に応じて切り替えながら書く――
それが意図的にできるようになったら、三人称形式の書き方が身についていると言えます。
そして、この書き方ができるようになれば、
「複数の登場人物の視点をあやつる」
ということも可能になります。
次のお話を読む
※視点に関するほかのお話
→三人称形式とは? いまさら人に聞けない小説の基本
→「中立の視点」の書き方 三人称形式の基本は客観視点
→「神の視点」という小説の表現法
→三人称小説で、登場人物の視点で描写する方法
→三人称形式で、複数の登場人物の視点をあやつる
→「主人公ではなく、ほかの登場人物の視点で描写する」という小説表現法
→一人称形式(一人称一視点)で小説を書くメリット
※よろしければこちらもご参考ください
→文章のテクニック (ラベル)
→小説作法(小説の書き方) (ラベル)
更新
2018年12月11日 例文を短縮するため、一部中略に。
2018年12月14日 リンクを追加。
2024年7月21日 ページ内目次を追加。