今回は、
「登場人物の視点で描写する」
について、お話しいたします。
登場人物の視点であることを伝える書き方
三人称形式では、地の文(せりふ以外の説明の文)において、すべての登場人物が名前(もしくは代名詞)で表記されています。
そのため、登場人物の視点で書いているつもりでも、客観視点(中立の視点、神の視点)で描写しているかのような文章になってしまうことがあります。
書き手である作家としては、
「このシーンは、この登場人物の立場で読んでほしい」
「ここは、この登場人物に共感してもらいたい」
「このシーンでは、このキャラが主役だ」
そういった意図があるので、登場人物の視点で書いていることが読者に伝わっていなければなりません。
客観視点(中立視点や神視点)ではなく、登場人物の視点であることがわかるように書く方法は――
「その登場人物の立場になって書く」
ということです(笑
実際、そのひと言に尽きるのですが――
すぐに実践(じっせん)ができるように、僕がよく使う方法をいくつかご紹介いたします。
ページ内目次
心理描写 〈登場人物視点の描写法1〉
もっとも確実なのは、
「心理描写をいれる」
という方法です。
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星乃塚(ほしのづか)は、青コーナーの様子を注意ぶかく見ていた。
滝本(たきもと)さん、とりあえず深呼吸はさせたみたいだな。
しかし、それだけだ。セコンドとして最低限のことをしただけで、アドバイスをしている様子はねぇ。
いくらアレとはいえ、そいつはひどすぎるぜ。カツオはあきらめずに逆転を信じてるんだ。まわりが助けてやらなくてどうする!
星乃塚はいても立ってもいられず、青コーナーに駆け寄った。
滝本トレーナーは驚き、目を丸くしている。
※『スピードでパワーファイターに勝つ』 第一章 このままだと逆転の見込みはない より抜粋。
※『スピードでパワーファイターに勝つ』は長編ボクシング小説です。WEB小説として『月尾ボクシングジム物語』というサイトで公開しています。
→目次 『スピードでパワーファイターに勝つ』
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地の文で心理描写がされている場合は、その登場人物の視点で書かれていることをあらわしています。
上記の例文で言うと、「滝本さん、とりあえず深呼吸はさせたみたいだな」から「まわりが助けてやらなくてどうする!」まで、星乃塚の心理が描写されています。
つまり、このシーンは星乃塚の視点で書かれているということです。
そして、それ以降の文は、星乃塚の視点を意識せずに書いても(中立視点のような書き方になっても)、星乃塚の視点で描写されていることが前提になります。
いちど登場人物の視点で描写されたら、
「シーンが切り替わるまでは、その登場人物の視点で書かれている」
と、読者は無意識レベルで思うからです。
受け身 〈登場人物視点の描写法2〉
「受け身」の表現も、登場人物の視点をあらわすのに効果的です。
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「カツオ、おまえとスパーをするために、よそのジムから出稽古(でげいこ)にくることになったぞ」滝本トレーナーからそう告げられたのは、昨日のことだった。
カツオが15ラウンドの練習を終えて、整理運動をしているときだった。
※『スピードでパワーファイターに勝つ』 第一章 このスパーリングは倒すか倒されるかの真剣勝負だ! より抜粋。
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「~された」
「~してきた」
といった受け身の表現がはいると、その文は「受け身の側(がわ)」の視点になります。
上記の例文では、
滝本トレーナーからそう告げられた――
という記述があるので、ここは告げられている人物の視点――カツオの視点で書かれています。
そして、それ以降の文は、カツオの視点を意識せずに書いても(中立視点のような書き方になっても)、読者はカツオの視点で描写されていると見なして読み進めることになります。
仮定(推測) 〈登場人物視点の描写法3〉
そのほかに、
「仮定を使う」
という方法もあります。
これも心理描写を使ったテクニックのひとつなのですが、さりげない一文で誰の視点であるのかを表現することができます。
滝本トレーナーは、カツオに声をかけた。
カツオは、青コーナーの前で呆然(ぼうぜん)と立ち尽くしている。
「どうしてだ……オレのフットワークでまわり込めない。オレのほうが速く移動しているはずなのに……」
カツオはつぶやきをもらした。
絶対的な自信をもっていたフットワークが通用せず、ショックを受けているようだ。
※『スピードでパワーファイターに勝つ』 第一章 オレのほうが速く移動しているはずなのに…… より抜粋
ここは「カツオ」と「滝本トレーナー」のふたりが登場しているシーンですが、
というカツオの心理を推測している記述があります。
こういう記述があると、仮定している(推測している)人物による視点になります。
つまりここ(これ以降)は、滝本トレーナーの視点だということです。
「~のようだ」
「~かもしれない」
「~らしい」
そういった仮定(推測)の言いまわしを使うことで、視点を表現することもできます。
「登場人物の視点で書いたはずなんだけど、ちゃんと書けているのかどうか不安だな……」
そう思った場合は、書いた文章を一人称形式にして読んでみましょう。
たとえば、
↓このシーン
背後から神保マネージャーに声をかけられ、星乃塚はびくっとなった。
振り返ると、神保マネージャーが口もとに不敵な笑みを浮かべている。
この笑い方はかなり怒っている顔だ。
※『スピードでパワーファイターに勝つ』 このままだと逆転の見込みはない より抜粋
ここは「星乃塚」の視点で書かれたシーンなのですが、確認のために地の文の「星乃塚」のところを、星乃塚の一人称(俺)に変えて読んでみましょう。
背後から神保マネージャーに声をかけられ、俺はびくっとなった。
振り返ると、神保マネージャーが口もとに不敵な笑みを浮かべている。
この笑い方はかなり怒っている顔だ。
ちゃんと文章として成立していますね。
一人称に変換したときに「一人称小説」として通用する書き方になっていれば、登場人物の視点による描写が正しくできています。
三人称形式では地の文を文語体(書き言葉)で書くため、一人称小説よりも表現が堅(かた)くなっている場合もありますが、変換してもおかしな文章になっていなければ、ちゃんと書けていると判断できます。
不安なときは、このような方法で確認しましょう。
登場人物の視点で書く――ということに自信がない人は、習作(しゅうさく)で一人称小説を書くことをお勧めします。
※習作とは、練習のために作品をつくることです。
一人称小説は視点がひとりに固定されているため、
「登場人物の立場で書く」
という能力が、自然と身につくからです。
次のお話を読む
※視点に関するほかのお話
→三人称形式とは? いまさら人に聞けない小説の基本
→「中立の視点」の書き方 三人称形式の基本は客観視点
→「神の視点」という小説の表現法
→「登場人物の視点」と「中立の視点」を組み合わせて書けるのが三人称形式
→三人称形式で、複数の登場人物の視点をあやつる
→「主人公ではなく、ほかの登場人物の視点で描写する」という小説表現法
→一人称形式(一人称一視点)で小説を書くメリット
※よろしければこちらもご参考ください
→文章の基本 (ラベル)
→文章のテクニック (ラベル)
→小説作法(小説の書き方) (ラベル)
更新
2018年12月7日、14日 リンクを追加。
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「だいじょうぶか、カツオ」滝本トレーナーは、カツオに声をかけた。
カツオは、青コーナーの前で呆然(ぼうぜん)と立ち尽くしている。
「どうしてだ……オレのフットワークでまわり込めない。オレのほうが速く移動しているはずなのに……」
カツオはつぶやきをもらした。
絶対的な自信をもっていたフットワークが通用せず、ショックを受けているようだ。
※『スピードでパワーファイターに勝つ』 第一章 オレのほうが速く移動しているはずなのに…… より抜粋
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ここは「カツオ」と「滝本トレーナー」のふたりが登場しているシーンですが、
――ショックを受けているようだ
というカツオの心理を推測している記述があります。
こういう記述があると、仮定している(推測している)人物による視点になります。
つまりここ(これ以降)は、滝本トレーナーの視点だということです。
「~のようだ」
「~かもしれない」
「~らしい」
そういった仮定(推測)の言いまわしを使うことで、視点を表現することもできます。
登場人物の視点で書けているか、確認する方法
「登場人物の視点で書いたはずなんだけど、ちゃんと書けているのかどうか不安だな……」
そう思った場合は、書いた文章を一人称形式にして読んでみましょう。
たとえば、
↓このシーン
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「星乃塚くん、いったい何をしてるんですか?」背後から神保マネージャーに声をかけられ、星乃塚はびくっとなった。
振り返ると、神保マネージャーが口もとに不敵な笑みを浮かべている。
この笑い方はかなり怒っている顔だ。
※『スピードでパワーファイターに勝つ』 このままだと逆転の見込みはない より抜粋
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ここは「星乃塚」の視点で書かれたシーンなのですが、確認のために地の文の「星乃塚」のところを、星乃塚の一人称(俺)に変えて読んでみましょう。
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「星乃塚くん、いったい何をしてるんですか?」背後から神保マネージャーに声をかけられ、俺はびくっとなった。
振り返ると、神保マネージャーが口もとに不敵な笑みを浮かべている。
この笑い方はかなり怒っている顔だ。
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ちゃんと文章として成立していますね。
一人称に変換したときに「一人称小説」として通用する書き方になっていれば、登場人物の視点による描写が正しくできています。
三人称形式では地の文を文語体(書き言葉)で書くため、一人称小説よりも表現が堅(かた)くなっている場合もありますが、変換してもおかしな文章になっていなければ、ちゃんと書けていると判断できます。
不安なときは、このような方法で確認しましょう。
一人称で書く練習が、登場人物視点で書く能力を高めてくれる
登場人物の視点で書く――ということに自信がない人は、習作(しゅうさく)で一人称小説を書くことをお勧めします。
※習作とは、練習のために作品をつくることです。
一人称小説は視点がひとりに固定されているため、
「登場人物の立場で書く」
という能力が、自然と身につくからです。
次のお話を読む
※視点に関するほかのお話
→三人称形式とは? いまさら人に聞けない小説の基本
→「中立の視点」の書き方 三人称形式の基本は客観視点
→「神の視点」という小説の表現法
→「登場人物の視点」と「中立の視点」を組み合わせて書けるのが三人称形式
→三人称形式で、複数の登場人物の視点をあやつる
→「主人公ではなく、ほかの登場人物の視点で描写する」という小説表現法
→一人称形式(一人称一視点)で小説を書くメリット
※よろしければこちらもご参考ください
→文章の基本 (ラベル)
→文章のテクニック (ラベル)
→小説作法(小説の書き方) (ラベル)
更新
2018年12月7日、14日 リンクを追加。
2024年7月21日 ページ内目次を追加。文章を加筆。