「かっこいい文章」や「男らしい文章」を書きたいのなら、ハードボイルドのテクニックがオススメです。
ハードボイルドの書き方をとりいれれば、男らしくてかっこいい文章になります。
しかも、ハードボイルドの文章はリズミカルで、とても読みやすいです。
文章を書く人にかぎらず、ハードボイルドの言葉の使い方は、
「渋くキメたい」
「自信に満ちた『できる男』だと思われたい」
という人にとっても参考になると思います。
ハードボイルドの文章スタイル
ハードボイルドの「文章スタイル」について、ご説明いたします。
と、その前に――
ハードボイルドに対して「スタイル」という言葉を使っていることに、抵抗を感じる人もいるかもしれませんね。
ハードボイルド作家自身が、
「ハードボイルドとはスタイルではなく、生きざまだ」
ということをたびたび語っているので、「スタイル(形式)」として確立しにくくなっているんですね。
とはいうものの……
ハードボイルドは、その「スタイル」こそが優れていると、僕は思っています。
ですので、今回はあえてハードボイルドを「スタイル」と捉えたうえで、お話ししていきます。
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ハードボイルド・スタイルの特徴
ハードボイルドの文章を簡単に言うと、
「短く、簡潔」
ということに尽きると思います。
一文一文を短く――つまり、文のはじめから句点(。)までを短くして書くことが、ハードボイルドにおける基本ルールと言えます。
数行におよぶ長文であれば、短く細切れにして複数の文にします。
たとえば、作中にこんな文章があったとします。
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その男は見た感じは30歳前後で、痩せていて眼光が鋭く、睨むような眼差しで私を見すえたまま、右手を差しだして握手を求めてきた。
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ふつうの文章ですよね。
これをハードボイルド風にすると、こんな感じになります。
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その男は、見た感じは30歳前後だった。痩せている。眼光が鋭い。睨むような眼差し。
男は私を見すえたまま、右手を差しだした。握手を求めてきたのだ。
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たったこれだけで、かなり「男らしい文章」になりましたよね。
もとはひとつの文だったものを6つの短い文に分割しています。
この例では少し誇張して書いていますが、ハードボイルドの基本はこれです。
一文一文を、短く簡潔に書く――
それを心がけると、文章が男らしく、かっこよくなります。
「体言止め」も活用する
文を短くするのに必要であれば、「体言止め」も使います。
※「体言止め」とは、名詞で文を終わらせる書き方のこと。
気配もなく現れた謎の青年。
渾身の力を込めたアッパーカット。
「体言止め」を効果的に使っているハードボイルド作家といえば、やはり北方謙三(きたかた・けんぞう)先生だと思います。
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短剣。
白い陶製の柄(つか)。
彫金(ちょうきん)の飾りのついた革の鞘(さや)。
吊り紐をつける金具。
出典:『檻』 北方謙三:著 集英社文庫(1987年)
※原文に3回改行を加え、( )の中にふりがなを補足するなどして、ネット上(横書き)で読みやすいように体裁を整えてあります。
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短剣の見た目を描写している場面ですが、4つの文、すべて体言止めです。
もしこれを体言止めを使わずにひとつの文章で書いたら、こんな感じになると思います。
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その短剣は、柄の部分が白い陶製で、革の鞘の部分には彫金の飾りがつけられ、吊り紐をつける金具が施されている。
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北方先生が書いたように、体言止めを使って文を短く区切ったほうが、明らかにリズムと歯切れが良いですよね。
ハードボイルドの文章はアクション・シーンに最適
ハードボイルドの手法が本領を発揮するのは、なんと言ってもアクション・シーンです。
小説は「活字のメディア」ですので、基本的にアクションの描写には向いていません。
言葉で表現するので、どうしても説明口調のようになってしまい、スピード感がうまくだせないんですね。
ですが、ハードボイルドのテクニックを使うと、文章にスピード感がでます。
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ちがう通りに出た。また悲鳴が聞こえた。
鞘に収めた短剣の柄を握ったまま、上着を脱いだ。
返り血がひどい。走り続けながら、上着で顔を拭いた。
また路地に入った。追ってくる。目がくらみそうだった。
出典:『檻』 北方謙三:著 集英社文庫(1987年)
※ネット上(横書き)で見やすいように原文に改行を3回加え、体裁を整えてあります。
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ものすごくスピード感ありますよね。
文章でアクションを表現するのに最適な手法だと言えます。
自信を感じさせる文章が「男らしい文章」
ほかにも、文章で「男らしさ」をだすには、
- ストレートな言い回しをする
- 断定形を多く使う
といった手法があります。
「断定形を多く使う」というのは、
「~であろう」
「~かもしれない」
といった仮定の言いまわしや、
「~された」
という受け身の表現をさけることです。
その代わりに、
「~だ」
「~だった」
と、言い切ることを心がけます
それによって、男らしく、自信を感じさせる文章になります。
ハードボイルド作家が書けば、花屋さんだってかっこいい
小説家を志している人のなかには、
「主人公の職業を、どう設定したらいいのか?」
ということで頭を悩ませている人もいるかと思います。
魅力的な主人公には、魅力的な職業が不可欠――
そう思っている人がほとんどだと思います。
探偵、刑事、スパイ――
危険ととなり合わせの非日常的な職業でなければ「かっこいい主人公」は描けないと思いがちですが……
実際は、そんなことありません。
ハードボイルドの表現テクニックを身につけていれば、どんな職業であれ、かっこよく描けます。
さきほど紹介した北方謙三先生の『檻』という作品では、主人公は裏社会から足を洗った「スーパーマーケットの店長」です。
さらに、北方先生の『錆』という作品では、主人公の職業は花屋さんです。
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薔薇(ばら)には、やはり棘(とげ)があるものだ。もう一度思った。
薔薇を買うなら、棘まで買え。
つまらないこだわりだった。
つまらないこだわりだった。
※原文に改行を2回加え、( )の中にふりがなを補足して、ネット上(横書き)で読みやすいように体裁を整えてあります。
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かっこいいぜ、花屋さん!
腕のいいハードボイルド作家にかかれば、どんな職業のキャラクターだってかっこよく描かれます。
すごいよなぁ、北方先生は……。
ハードボイルドのテクニックで表現の幅が広がる
ハードボイルドのように短く簡潔に書かれた文章は、リズムと歯切れが良いため、とても読みやすいです。
また、日常の会話でも、短く簡潔に話すと、相手に伝わりやすい話し方になります。
男性の場合は、言葉づかいが「男らしい」という印象を与えます。
このハードボイルドのテクニックをしっかりと身につけて、表現の幅をさらに広げていきたいものですね。
※ハードボイルドに関するほかのお話
→推理小説の対極はハードボイルド?
※よろしければ、こちらもご参考ください
→「対決シーン」で臨場感をだすための文章テクニック(本条克明の場合)
→文章のテクニック(ラベル)
→小説作法(小説の書き方)(ラベル)
更新
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2024年1月4日 記事内の広告を削除。
2024年8月12日 ページ内目次を追加。