2018年1月6日土曜日

推理小説の対極はハードボイルド?


 ミステリー小説には、大きく分けてふたつのタイプがあります。

「本格推理」「ハードボイルド」です。

 なかには、
「えっ!? ハードボイルドって、ミステリーなの!?」
 と思った人もいるかもしれませんね。

 ハードボイルドという言葉を聞くと、
「男の美学」
「男らしさを強調した冒険(アクション)もの」
 というイメージを思い浮かべる人が少なくないからです。

 そのイメージは、正解です(笑
 ハードボイルドとは、そういうものです。

 ですが、ハードボイルドはそれだけではありません。

 ハードボイルドには、
「行動派ミステリー」
 という形式もあるんですね。


ハードボイルドとは? (ハードボイルドの定義)


 まずは、「ハードボイルドの定義」について、ご説明いたします。

*       *       *
冒険小説としてのハードボイルド

 ハードボイルドのはじまりについて断言はできないのですが、アーネスト・ヘミングウェイが原点だと言われています。
 記者をしていた経験のあるヘミングウェイが、「飾り気のない簡潔な文体」を小説にとりいれます。
 そこに『男の美学』というテーマを融合させることで、男らしい文学(ハードボイルド)が生まれました。
 そのほとんどが、困難に挑んでいく男の姿を描いた「冒険小説」です。


行動派ミステリーとしてのハードボイルド

 ダシール・ハメットや、レイモンド・チャンドラーの流れをくむ作品のことです。
 それまでのミステリーは、シャーロック・ホームズ型の推理(頭脳)で事件を解決するものしかありませんでした。
 そこへ、本物の探偵として活動していたことのあるハメットが、
「体をはって調査をする」
 という、それまでにない探偵像を小説に持ち込みます。

 さらにチャンドラーが、
「推理だけで事件を解決するのはリアリティーがない」
 と主張して、アガサ・クリスティらを批判します。
 チャンドラーはハメットの流れを引き継いでヒット作を生みだし、それによって「行動派ミステリー」というスタイルは世界に広く認知されることになりました。
*       *       *


 ハードボイルド小説には、

  • 冒険小説(もしくはアクション小説)
  • 行動派ミステリー

 という、ふたつのタイプがあるんですね。

 おおざっぱではありますが、これが正しいハードボイルドの定義です。


 とは言うものの……

 ハードボイルド作家自身が、
「ハードボイルドとは、生きざまだ」
 ということをたびたび語っているので、この定義もかなり曖昧(あいまい)なものになっています。

 つまり、
「強くて、渋くて、かっこいい男が主人公なら、それだけで『ハードボイルド小説』のレッテルが貼られる」
 という風潮が、実際にあるんですね。

 特に、チャンドラーの小説の主人公、フィリップ・マーロウに似た雰囲気のあるキャラクターが主人公だと、問答無用で「ハードボイルド」に分類されたりします。

 ですので……

「ハードボイルドとは、そういうもんだ」
 そう解釈してください(笑


「本格推理」と「ハードボイルド」、相反するミステリーのタイプ


 ハードボイルドには、

  • (男の美学をテーマにした)冒険小説
  • 行動派ミステリー

 という、ふたつのタイプがあります。

 そして、後者の「行動派ミステリー」は、推理小説のアンチ(対抗)小説として発展します。

 その結果、ホームズ型の推理小説は「本格推理小説」と呼ばれるようになります。
 そして『ミステリー』というジャンルは、

  • 本格推理
  • ハードボイルド

 という、ふたつのタイプに分かれたんですね。


ハードボイルド(行動派ミステリー)の特徴


「行動派ミステリー」と呼ばれるハードボイルド小説の特徴は、次のとおりです。

*       *       *
謎解き(犯人当て)の要素は薄い
 中盤までに犯人が判明してしまうことも多く、そこからは犯人との直接対決(頭脳戦・心理戦)のような展開になります。
 さらには、最初から犯人が判明していて、犯人との直接対決だけを描いたものもあります。
 また、「物語の終盤(終わる直前)に登場した人物が犯人」という本格推理ではタブーとされる展開も、ハードボイルドではたびたび見られます。

捜査(調査)のプロセスが物語のメイン
 聞き込みや潜入など、体を張った行動による捜査(調査)のプロセスを描くことが主眼になっています。「行動派ミステリー」と言われるゆえんです。
*       *       *


 この説明を読んでも、ハードボイルド(行動派ミステリー)がどういうものなのかピンとこないという人は……

 実際に、ハードボイルド小説を読んでみるのがいちばんだと思います(笑


日本のハードボイルド(行動派ミステリー)のオススメは、小説じゃないけど……


 古典ではあるのですが、やっぱりオススメなのは、レイモンド・チャンドラーのフィリップ・マーロウ・シリーズです。

 この作品が「ハードボイルドのイメージ」として定着しているからです。

 近年では、村上春樹(むらかみ・はるき)先生によって翻訳されたものが早川書房からでていますね。

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『ロング・グッドバイ』 レイモンド・チャンドラー:著 村上春樹:訳  ハヤカワ・ミステリ文庫(2010年)
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 村上先生の文章は、リズミカルで読みやすいです。文体がハードボイルドに合っています。
 というより、すごいです。
 物書きの端くれとして、たいへん勉強になります。

 チャンドラー作品を読むのなら、村上先生の翻訳で読むのがオススメです。

 もしくは、海外もののスパイ小説もいいですね。
 ハードボイルド(行動派ミステリー)は、探偵小説からスパイ小説へと引き継がれていった経緯があるので、スパイ小説のほとんどが「行動派ミステリー」の手法によってつくられています。
 スパイ小説を読むと、行動派ミステリーがどういうものか、感覚的にわかるようになると思います。


 もし、
「古典や、海外小説はイヤだ」
 というのであれば……

 小説ではなく、ノベルタイプのアドベンチャーゲームになるのですが、
 探偵・神宮寺三郎(じんぐうじ・さぶろう)シリーズ
 という作品が、僕のオススメです。

 特に、シリーズ6作目、

『探偵 神宮寺三郎 夢の終わりに』
(PlayStation、セガサターン用ソフト  データイースト株式会社  1998年)

 という作品は、すばらしく出来がいいです!

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 探偵 神宮寺三郎 夢の終わりに
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 シリーズ第6作目になりますが、前作をやっていなくても問題なくプレイできます。

 このゲームには「推理する」というコマンドがあり、これを選択すると[推理モード]にはいります。
 ですが、この推理が事件の解決になるわけではありません。
 この作品における「推理」は、調査の方向性を定めるための「仮説」にとどまっています。

 この「推理」の概念は、すばらしいですね。
 ハードボイルドは「リアルな調査」をコンセプト(理念)にして生まれたのですが、まさしく「リアルな推理」だと言えます。
 行動派ミステリーにおける推理は、やっぱりこうあるべきですよね。


 PS1、もしくはセガサターン用の作品なので、現在ではやや入手困難ではあるのですが……

 ハードボイルド(行動派ミステリー)として秀逸な作品です。
 もしあなたがミステリー作家を志しているのであれば、なんとかして見つけだし、プレイできる環境を整え、くり返しプレイすることをオススメします。

 かならず勉強になりますから。


事実上、ハードボイルドがミステリーの主流になってきている


 ハードボイルドは「謎解き」の要素が薄いため、
「ミステリーではない」
 と主張する人もいます。

 ですが、海外(特にアメリカ)では、ミステリーといえば、ハードボイルド(行動派ミステリー)のほうが主流になっています。

 アメリカで制作された刑事ドラマ(もしくは探偵ドラマ)を観ても、容疑者を一堂に集めて「犯人はこのなかにいる」というタイプのものは、まったくと言っていいほどつくられていません。
 捜査(調査)の過程をリアルに描いた行動派ミステリーが、圧倒的に多数を占めています。


 日本の場合は、「ハードボイルド」というジャンルそのものに人気がないため、ミステリーは推理小説が主流です。

 ですが、現在つくられている推理小説は、リアリティーをだすために捜査の過程を入念に描いているので、ハードボイルドの要素が多くとりいれられています。

 結果として、「推理小説」というカテゴリに分けられてはいるものの、本格推理とハードボイルドの中間のようなつくりになっているものが多くなっています。

 ミステリー作家を志している人は、本格推理を書くにしても、ハードボイルドの手法は勉強しておいたほうが賢明だと思います。


ハードボイルドに関するほかのお話
かっこいい文章を書くなら、ハードボイルドで

よろしければ、こちらのお話もご参考ください。
「捜査」と「調査」のちがい
「殺人課」と「捜査一課」
「容疑者」と「被疑者」、「被告人」のちがい

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更新
2019年8月20日 文章表現を一部改訂。
2019年8月26日 リンクを追加。