2018年1月5日金曜日

「容疑者」と「被疑者」、「被告人」のちがい


 犯罪の嫌疑をかけられている人物に対して使われる、
  • 容疑者
  • 被疑者
  • 被告人
 という言葉について、お話しいたします。


「容疑者」は正式な用語ではない


 マスコミの報道でもっとも多く使われているのは、「容疑者(ようぎしゃ)」です。

 ですが、「容疑者」という言葉は、正式な法律用語ではありません

 法律(刑事訴訟法)では、犯罪をおかした嫌疑によって捜査の対象になっている人物のことを、
「被疑者(ひぎしゃ)」
 と言っています。

 ですので、「容疑者」と「被疑者」という言葉には、

  • 容疑者 …… 一般的ではあるが、正式な法律用語ではない
  • 被疑者 …… 正式な法律用語だが、一般的にはあまり使われていない

 という違いがあるんですね。


容疑者(被疑者)から「被告人」に


「容疑者」「被疑者」は、警察に逮捕されたあとも、まだ『犯人』ではありません。
 依然として「容疑者」「被疑者」のままです。

 ですが、検察官が起訴をすると「被告人(ひこくにん)」に呼び方が変わります

 これは、警察が被疑者(容疑者)を逮捕したのち、検察が被疑者(容疑者)を取り調べた結果、犯人である可能性が高いと判断して、検察官が起訴したことによるものです。

 つまり、「被告人」という言葉は、
「捜査が終了して、事件が『法廷』に移った」
 ということを意味しているんですね。

 報道では、嫌疑をかけられている人物のあとに「被告」という言葉をつけて、
「○○被告」
 という言い方をすることが多いですね。

 ですので、「被告人」「○○被告」は、
「起訴されて、裁判中の人物」
 というふうに覚えておいてください。

 そして、「被疑者(容疑者)「被告人」のちがいは、

  • 被疑者(容疑者) …… 起訴される前
  • 被告人(○○被告) …… 起訴されたあと

 ということになります。


容疑者(被疑者)も、被告人も、まだ『犯人』ではない


 世間では、「被疑者(容疑者)「被告人」のことを『犯人』だと思っている人が多いです。
 ですが、法的にはまだ『犯人』ではありません。

 裁判をおこなった結果、有罪であることが確定した――
 そのときに『犯人』になります

 裁判の結果がでるまでは犯人ではなく、あくまでも「犯罪をおかした嫌疑がかけられている人物」なんですね。

 刑事ものや探偵系の小説やドラマだと、被疑者(容疑者)を逮捕した時点で「事件解決」のように描かれていますが、実際は、裁判で判決がでるまで事件は終わっていないんですね。


「重要参考人」も正式な用語ではない


 報道では「重要参考人」という言葉もたびたび使われていますが、これも容疑者と同様に正式な法律用語ではありません。

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 新聞やテレビでは、「重要参考人」という言葉もよく使われる。これも法律には出てこないマスコミ用語だ。逮捕状を出せるほど容疑が固まっているわけではないが、きわめて疑わしい人間として捜査機関が任意で事情聴取を行ったときに、こう呼ばれることが多い。

出典:『知らないと危ない「犯罪捜査と裁判」基礎知識』 河上和雄:著 講談社文庫(1998年)
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 重要参考人というのは、
「容疑者(被疑者)というほど容疑が濃いわけではない人物」
 に対する言葉として、マスコミが使っている用語なんですね。


ミステリー作家を志すのなら、用語の使い分けができるようにしよう


 これらの用語のちがいを知っておくと、より深くミステリー小説を楽しめると思います。

 また、ミステリー作家を志している人は、このことをしっかりと理解しておいたほうが良いと思います。

 たとえば、

  • 作中に登場する記者やマスコミ関係者は「容疑者」という言葉を使う
  • 作中に登場する弁護士や検察官や裁判官など、法律の専門家は「被疑者」という言葉を使う

 といったように、用語の使い分けが正しくできていると、
「この作家は、ちゃんと勉強したうえでミステリーを書いてるな」
 と感心されたり、目の肥えた読者からの評価があがったりします。

 用語の使い分けができているかどうかは、地味なことですが、作家としての評価を左右する重要なポイントです。

 ミステリー作家を志している人は、しっかりと使い分けができるようにしましょう。


よろしければ、こちらの記事もご参考ください。
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「殺人課」と「捜査一課」
推理小説の対極はハードボイルド?


更新
2019年8月26日 リンクを追加。文章表現を一部改訂。
2024年1月7日 記事内の広告を削除。記述を一部削除。文章表現を一部変更。