今回は、ミステリー小説でよく使われる、
「捜査(そうさ)」と「調査(ちょうさ)」
という用語のちがいについて、お話しいたします。
これらの用語を知らなくても、問題なくミステリー小説を読むことはできます。
ですが、知っておくとより深く楽しめると思います。
また、ミステリー小説を書く人(書こうと思っている人)は、この用語の使い分けがしっかりできていると、作家としての評価があがったりします。
「捜査」と「調査」
このふたつの言葉、どちらも意味は同じです。
どちらも問題(事件)の解決のために「調べる」という意味の言葉です。
ですが、ちゃんと使い分けがされています。
- 捜査 …… 警察や検察などの公的な捜査機関が調べる場合
- 調査 …… 民間人(個人や民間の機関)が調べる場合
つまり、
法的な捜査権を持っている人が調べる場合は「捜査」、
民間で調べる場合は「調査」なんですね。
平たく言ってしまうと、
- 警察や検察の場合は「捜査」
- 探偵や一般人の場合は「調査」
ということになります。
ちなみに――
先ほどの説明では、公的な捜査機関のことを「警察や検察」とおおざっぱに言いましたが、厳密にはもう少し細かく分類されます。
*******
犯罪の捜査機関は、警察だけではない。刑事訴訟法では、司法警察職員、検察官、検察事務官の三つに捜査する権限が与えられている。
司法警察職員は、さらに一般司法警察職員と特別司法警察職員に分けられる。ふつうの警察官は前者。後者には、海上保安官や麻薬取締官などが含まれる。
出典:『知らないと危ない「犯罪捜査と裁判」基礎知識』 河上和雄:著 講談社文庫(1998年)
*******
まとめると、以下のとおりです。
- 警察官 (一般司法警察職員)
- 海上保安官(特別司法警察職員)
- 麻薬取締官(特別司法警察職員)
- 検察官
- 検察事務官(検察官の指示を受けて捜査をする人)
上記の捜査権をもつ人が調べる場合は、「捜査」という言葉が使われます。
それ以外の人物(探偵など)が調べる場合には、「調査」という言葉が用いられます。
※特別司法警察職員には、自衛隊警務官、労働基準監督官なども含まれており、これらの機関にも法的な捜査権が与えられています。
捜査する人物に対して「刑事」と言うのは俗称
さらに、余談になりますが――
事件の捜査をする人物に対して「刑事(けいじ)」という言葉が使われていますが、これは正式な名称ではなく俗称です。
ここで言う「刑事」は、
「私服で活動する警察官」
のことを指しているんですね。
ですので、正式には「私服警察官」という言い方になります。
とはいえ、物語においては「刑事」や「デカ」と言ったほうがしっくりきますよね、やっぱり(笑
実際の警察組織のなかでも「刑事」や「デカ」という言葉を使っていますので、正式名称ではなくても、物語のなかで使用して何も問題ありません。
むしろ、リアリティのある用語だと言えます。
ミステリー作家を志すなら、しっかりと用語の使い分けを
ミステリー作品のなかには、このふたつの用語の使い分けがされていないものもあります。
探偵に対しても「捜査」という言葉が当たり前のように使われていたりします。
ぶっちゃけ、意味は通じるので、それでも問題はありません(笑
ですが、もしあなたが「ミステリー小説を書きたい」と思っているのであれば、この用語のちがいは理解しておいたほうが良いと思います。
この使い分けがしっかりできていると、
「ミステリーを書くうえで、ちゃんと基礎知識を身につけているな」
といった感じで、目の肥えた読者からの評価があがったりします。
ミステリー作家を志している人は、しっかりと使い分けができるようにしましょう。
※よろしければ、こちらのお話もご参考ください
→「殺人課」と「捜査一課」
→「容疑者」と「被疑者」、「被告人」のちがい
→推理小説の対極はハードボイルド?
更新
2018年9月27日 誤植を一ヶ所訂正。
2019年5月29日 特別司法警察職員に関する記述を追記。
2019年8月26日 リンクを追加。
2023年3月5日 誤植を一ヶ所訂正。
2024年9月22日 ラベル「ミステリー」を削除。