今回は、「自分の頭で考える哲学的思考法」の5回目として、
「より高度な哲学的思考法の活用例」
についてお話しいたします。
※1回目から読む場合は、こちらの記事をご閲覧ください。
→「無知の知」はソクラテスの落胆だった? (自分の頭で考える哲学的思考法1)
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ここまでお読みになり、すでに「真の反ばく法」や「総合的に考える思考法」を理解しているあなたは、より高度な哲学的思考を身につける準備が整っています。
「より高度な哲学的思考」というのは、弁証法(べんしょうほう)のことです。
弁証法によってレベルアップする
なかには『弁証法』というものに対して、
「ものすごく難解で、一般人が理解するのは不可能」
という印象をいだいている人もいるかもしれませんが……
そのとおりです(笑
弁証法というのは哲学のなかでも特に難解ですので、完璧に理解するのは困難です。
だからこそ僕の父は博士号を取得することができたんですね、弁証法を理解できる数少ない人でしたから。
弁証法を学術的に理解しようと思ったら、かなりたいへんです。
ですが、完璧に理解しようとするのではなく「弁証法の原理」だけを理解して活用するのであれば――
じつは、意外とシンプルです(笑
というより、
前向きに困難に立ち向かっていく人
「方法はある」と信じて試行錯誤する人
「方法はある」と信じて試行錯誤する人
そのようなポジティブな人たちは、本人に自覚がなくても、おもいっきり『弁証法』を使っていたりするんですね。
弁証法を(知らず知らずのうちに)活用している例
機器を開発する仕事をしているAさんは、画期的(かっきてき)な商品をつくることに成功しました。
その商品の売れ行きは上々(じょうじょう)で、評判もたいへん良く、すべてが順調にいっています。
ところが、あるていどの期間が経つと、
「とても便利なんだけど、あまり長持ちしない」
という声が寄せられ、『耐久性』の面において問題があることが発覚しました。
Aさんはこの問題を克服するため、耐久性をアップする方法を試行錯誤します。
努力の甲斐(かい)あって、Aさんはこれまでの商品に耐久性が加わった『ヴァージョンアップ版』の開発に成功します。
こうしてAさんは、より優れた商品を世に送りだすことができたのでした。
*
小説家のBさんは、『痛快さ』を持ち味にした小説を書いています。
「わるい奴をやっつけてスカッとする」という物語を長年にわたって書きつづけており、いまでは人気作家です。
ところが、ある時期からBさんの小説が売れなくなってきました。
読者のなかから、
「わるい奴をこらしめて喜んだり、わるい奴をころせばハッピーエンドだと思うのは、『未熟な心理』以外のなにものでもない」
「悪人に対しては暴力を使ってもいい、という考え方には共感できない」
という声があがり、Bさんの小説に『低俗』のレッテルが貼られるようになったのです。
Bさんは、この問題を克服する方法を模索(もさく)します。
「より高度な痛快さ」を求めて、日々、考察と検証を積み重ねます。
そのすえに、Bさんはこのように思い至りました。
「わるい奴をこらしめ、排除することに痛快さを感じるのは、人が『わるい奴の存在を消す』ということに『快』を感じるからだ。
だったら、より精神性の高いかたちでわるい奴を消せばいい。
つまり、『悪人が改心(かいしん)して、善人に変わる』ということだ」
そしてBさんは、
敵役(かたきやく)の登場人物が、自分の過ちを痛感し、罪の意識にとらわれ、苦悩し、心を改める――
その心理を丁寧に描写した小説を書きあげます。
『改心』による解決を描いた新しい痛快小説を完成させたのです。
これによってBさんの小説の評価はあがり、『低俗』のレッテルはぬぐい去られ、Bさんの作品は『文学』として高く評価されるようになったのでした。
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野球選手のCさんは、打撃がとても好調で、打率がぐんぐんあがっています。
対戦するピッチャーたちは、Cさんをマークしはじめました。
Cさんに対してきびしいインコース攻めをおこなうようになったのです。
Cさんは体の近くにとんでくる球にのけぞらされ、バッティングフォームがみだれてしまいます。
Cさんは打撃不振になってしまいました。
Cさんは、インコース攻めを克服する方法を模索します。
そして、
「インコースに投げられたら、逃げずに迎え撃ってやる!」
と決意します。
Cさんはインコースにきた球をよけようとする習性を変えるため、体の近くに投げられたら、反射的にバットをだして打ち返すことを体におぼえこませます。
その努力の結果、Cさんはインコースに投げられてものけぞることがなくなり、自分のバッティングをとりもどすことができました。
しかも、インコースにきた球を迎え撃って引っ張ることができるようになったため、以前よりもホームランをたくさん打てるようになりました。
こうしてCさんは、より高度なバッティングができるようになったのでした。
弁証法は進化のプロセス
こういったことは、よくあることですよね。
きっとあなたも似たようなかたちで問題を克服し、レベルアップした経験があると思います。
そして、このレベルアップのしかたが『弁証法』です。
本人にその自覚があるかどうかに関係なく、前向きに問題にとりくむ人たちは、あたりまえのように実践(じっせん)していることなんですね。
簡単に言うと、
うまくいっている
↓
問題(否定)が見つかる
↓
問題を克服する
↓
問題(否定)が見つかる
↓
問題を克服する
という進化(成長、発展)のプロセスのことです。
そして、無自覚に実践するのではなく、このプロセス(弁証法)を理解したうえで活用すると、よりスムーズに問題を克服することができるようになります。
さらには、
実際に問題が起こるよりも早く、
みずから問題を見つけだしてそれを克服し、
先手をとるようにして進化(レベルアップ)していく――
みずから問題を見つけだしてそれを克服し、
先手をとるようにして進化(レベルアップ)していく――
ということも可能になります。
弁証法はドラマチック! 物語を創作する人は弁証法を理解しておこう
いまこのお話を読んで、
「弁証法によるレベルアップのしかたは、ドラマチック(劇的)だな」
と思った人もいるかもしれませんね。
そう、この成長のプロセスは、ドラマになるんです。
失敗したら、その経験から学んで「どうすればうまくいくのか?」を試行錯誤し、前よりも賢くなって、最終的には成功する――
敗北したら、立ちあがって「どうすれば勝てるのか?」を試行錯誤し、前よりも強くなって、次はかならず勝利する――
小説やマンガなど、物語の創作を志している人は、『弁証法』を理解しておくと物語づくりにとても役立つと思います。
成功や成長のプロセスを知っている人は、「ドラマチックなストーリー」というものを論理的に組み立てることができるからです。
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次回は、
「弁証法の理論」
についてお話しいたします。
次のお話を読む
※自分の頭で考える哲学的思考法
→「無知の知」はソクラテスの落胆だった? (1)
→まけない議論のやり方(2)
→総合的に考える方法①(3)
→総合的に考える方法②(4)
→弁証法でレベルアップする方法①(5) 当記事
→弁証法でレベルアップする方法②(6)
→本質を突き詰めていく思考法(7)
※この記事は、哲学者だった本条克明の父が西洋哲学の知識のない本条克明にもわかるようにかみくだいて説明してくれた内容をほぼそのままお伝えしています。
哲学の専門家が素人の本条克明に話した内容であるため若干の誇張があるかもしれませんが、そのぶん「知識」ではなく「人生で役立つ話」として哲学が語られています。「学問」としてではなく「実践するための哲学」として語られた内容であることをご了承のうえご参考ください。
更新
2019年6月5日 文章体裁(レイアウト)を3ヶ所改訂。
2024年11月6日 ラベル「生き方・自己啓発」を追加。