小説は「活字のメディア」ですので、言葉(文章)ですべてを表現します。
それゆえに、「伝えようとしているイメージがうまく伝わらない」という問題が生じたりします。
でね――
ちょっとお尋ねしたいのですが、
栗色(くりいろ)と聞いて、どんな色を思い浮かべますか?
栗の皮の色ですか?
それとも、栗の中身の色ですか?
栗色ってどんな色?
僕は以前、このことでショックを受けたことがあります。
「人によって『栗色』と聞いて思い浮かべる色がちがう」
ということに気づいたからです。
僕はずっと作中の登場人物に「栗色の髪」という設定をふつうにおこなってきたので、それはもう愕然(がくぜん)となりましたよ。
栗色って、皮の色? 中身の色?
「栗色」から思い浮かべる色は、ふたつに分かれます。
一方は、栗の皮の色――赤みがかった濃い茶色。
もう一方は、栗の中身の色――明るい黄色。
僕は登場人物の髪の色に「栗色」という設定をよく使っていたのですが、皮の色と中身の色では、まったくと言っていいほどイメージが異なってしまいます。
皮の色だと濃い茶色になるので、少し地味で、控え目な印象になります。
中身の色だと明るい黄色になるので、派手で、きらびやかな印象になります。
ほとんど金髪に近い色ですよね。
これ、いろんな人に訊いてみたのですが、ものの見事に半々にわかれました。
※あくまでも本条克明の調査結果です。
つまり、小説で『栗色』の表現を使うと、ちゃんと伝わらない可能性が50%になるということです。
うぅぅぅん……。
栗色の、本当の色
「栗色」というのは、皮の色です。
赤みがかった濃い茶色。
カラーコードだと #762F07。
↑これが、栗色です。
見てのとおり、中身の色(黄色)とはぜんぜんちがう色です。
これって悩ましい問題だよなぁ、50%の確率で勘違いされるというのは……。海外小説や、SF・ファンタジー小説をたくさん読む方であれば、いろんな髪色の表記に慣れているので、色には敏感だと思います。
ですが、それ以外の方の場合は――
考えてみると日本人の場合は、「黒髪・茶髪・金髪」ぐらいの分類しかしないのがふつうですよね。
銀髪は、黒髪が一般的な東洋人がやると白髪(はくはつ)っぽく見えるので、やる人はあまりいないし。
小説は活字メディアですので、「言葉から読者が自由にイメージする」という特徴を持っています。
ですので、書き手のイメージを100%伝える必要はないのですが……。
とはいえ対極に近いほどのギャップ(へだたり)があるとなると、さすがに考え物ですよね(苦笑
デジタル時代の文章なら、意外と簡単に克服できる?
この「栗色」のケースは、言葉で表現することのむずかしさを実感させられます。
と、言いつつ――
僕の場合は「カラー小説」という名目で、「フォント(文字)に色をつける」という手法を使うようになったので、それほど頭を悩ませる必要はなくなりました。
だって、どうしても色を正しく伝えたいのであれば、
栗色
といった感じで、実際にフォントを栗色にしちゃえばいいんですから(笑
WEBや電子書籍として公開するときには、文章に色分けをしていますので、僕の場合は「色を伝えるむずかしさ」という問題は、とりあえずクリアしました。
とはいえ、色分けに依存して「言葉で伝える」という努力を怠ったりしないように、自分を律しながら文章を書いています。
言葉で表現するのが作家の仕事なんですから、色分けにあまえすぎちゃダメですよね(笑
『色』には、その色自体にイメージがあり、その色特有の印象を相手に伝えます。
書き手としては、やっぱり『色』は正確に伝えたいですよね。
※「言葉では伝わりにくい色」に関するほかのお話はこちら
→亜麻色(あまいろ)とは、どんな色?
→ヘーゼルとは、どんな色?
更新
2024年9月8日 画像を3枚追加。