僕は、作家を志したときに、
「個性(オリジナリティ)」
について考え、自問自答をくり返しました。
作家にかぎらずクリエイティブな活動をしている人であれば、「個性」について考察し、自分なりの『答え』を導きだしていると思います。
今回は、
「個性とは何か?」
という問題と真摯(しんし)に向きあっている人のために、一作家としてアドバイスいたします。
「個性」とは?
小説では「オリジナリティ(個性)」が重んじられています。
では、「個性」とはなんでしょう?
他人とちがっていること――それを基準にしていたら「本当の個性」は現れない
「個性」とは、「その人特有の性質」のことです。
つまり、ほかとはちがっていることを指します。
「それじゃ小説で個性をだすには、ほかの小説とちがう書き方をすればいい」
ということになりそうですが、それはちょっとちがう気がします。
たしかにそれも個性ではあるのですが、
「ほかとちがうように書く」
ということを意識している時点で、ほかの人の小説が基準になっています。
他人が基準になっているうちは「本当の個性」とは言えません。
つまり、本当の個性は「自分らしさ」のなかにあると、僕は考えています。
では、「自分らしさ」とはどういうことでしょう?
生まれながらにある『心』に、自分らしさがある
話は変わりますが――
日本語では『心』をあらわす言葉は『心』だけです。
ですが、英語ではふたつの言葉――「マインド(mind)」と「ハート(heart)」で表現されています。
「マインド」は、理性や思考といった意味における心で、おおむね脳のことを指しています。
「ハート」は、感情や感覚をつかさどる部分の心です。
名称の通り、この心は胸(心臓)にあると考えられているみたいですね。
人は、生まれた直後はまだマインドが未発達です。
そのため、ハートが唯一の心です。
そういう意味では、生まれながらにして存在するハートが『本当の心』と言えるのかもしれません。
マインドにとっては、
「良いか悪いか」
「正しいかまちがっているか」
ということが物事の判断基準になります。
ハートは、それとはちがう判断の仕方をします。
理性的な善悪の判別ではなく、『感情』が判断の基準です。
つまり、「好き(快)」と「嫌い(不快)」で物事を判断します。
生まれながらにしてあるハートのほうが『本当の心』だとすれば――
この「好きか嫌いか」こそが、本心(本当の自分)による判断だと言えます。
そして、導きだされる結論は――
「自分らしさ」は「好き-嫌い」を判断基準にすることで現れる。
そしてそこから「個性」が生まれる。
実際、人の「好み」というのはさまざまです。
善悪の価値観は、社会共通であることによって規律が守られるため、個人差はあまり見られません。
ですが、人の「好み」は個々の感情によるものなので、個人差があります。
なので僕は、僕の「好き」を判断基準にして創作をしています。
僕の好きなことを題材に、
僕の好きなストーリーをつくって、
僕の好きな書き方で書く――
といった具合に。
そうやってつくりあげた小説は、たとえアイデアに斬新さがなかったとしても、「僕らしい小説」に仕上がります。
これが本当の意味でのオリジナリティ(個性)なんだと、僕は考えています。
本当の自分、本当の個性が、あなたを通してあらわれてくる
ハートの声を重視して「好きか嫌いか」を判断基準にする――
これは、口で言うほど簡単ではありません。
なぜなら、私たちはみな、
「好き嫌いでものごとを判断するな、良いか悪いかで判断しろ!」
「感情で判断するな、理性的になれ!」
そう訓練されて育つからです。
このような価値観を植えつけられるのは、集団のなかで規律を守って生活できるようにするためです。
このことは、社会性を身につけるためには必要なことです。
ですが、ほとんどの人が「善し悪しの判断」が深く潜在化しているために、マインド(思考する心)が優勢になりすぎています。
つまり、『本心』であるはずのハート(感情や感性)が抑圧されて、退化してしまっているんですね。
「やりたいことがわからない」
「自分の好きなことがわからない」
そういった若者の悩みはみな、ハートが機能しなくなっていることが根本的な原因です。
なので、もし「個性」や「自分らしさ」がわからなくて悩んでいるのであれば……
ときどきでもかまいません。
少しずつでもかまいません。
創作に関することをやっているあいだだけでもかまわないので、「良い悪い」を基準に判断するのはやめて、自分のハート(感情)に『答え』を求めてみましょう。
「何が良いのか?」
ではなく、
「(私は)何が好きなのか?」
「(私は)どっちが好きなのか?」
それを、自分の『心』に問いかけてみましょう。
ハートが教えてくれた「好き(快)」こそが、あなたの本心です。
その『想い』に従いましょう。
そうすることで、
「本当の自分」
「本物の個性」
が、あなたを通して現れてきます。
※「個性」に関するほかのお話は、こちらをご参照ください。
→自分の頭で考える それが個性のはじまり
更新
2024年11月3日 文章表現を一部変更。