今回は、僕の「小説の創作法」の4回目として、
「プロットを仕上げる」
についてお話しいたします。
※1回目から読む場合は、こちらの記事をご閲覧ください。
→小説のモチーフを得る (本条克明の小説作法1)
プロット(物語の構想)を完成させる
プロットというのは、「物語の構想」のことです。
※詳しくはこちらをご覧ください。
→小説におけるプロットとは?
すでに設定を終えていますので、次はいよいよプロットを完成させます。
ページ内目次
小説は、プロットを仕上げなくてもいい?
と言っておきながら、いきなりですが――
じつを言うと、小説のプロットというのは、わざわざ仕上げる必要がないことがたびたびあります。
たとえば、以前に『きみの微笑みが嬉しくて』という中編小説を電子書籍として配信していたことがあるのですが……。
※現在はWEB小説として『恋とは幸せなものなんだ』というサイトで公開しています。
→目次 『きみの微笑みが嬉しくて』 (恋とは幸せなものなんだ)
この作品のときは、プロットを仕上げていません。
舞台設定と、主要キャラクターの設定を終えた時点で、そのまま執筆にとりかかりました。
事前にプロット(物語)を完成させずに、そのまま書きはじめた理由――
それはもちろん、必要なかったからです(笑
これは、「小説ならでは」のことなんですね。
プロットという言葉は「物語の設計図」というふうに訳されることがありますが、まさに「設計図」と同様の理由で、小説の場合はプロットを必要としないことがあるんですね。
たとえば、ロボットクリエーターの高橋智隆(たかはし・ともたか)さんは、設計図なしで、すべての工程をひとりで制作していると言います。
設計図を用意しない理由について、高橋智隆さんはこのように語っています。
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「設計図が必要な理由っていうのが、みんなで――開発チームのなかで情報を共有するだったりとか、設計した部品を外注にだして工場につくってもらうとか、そのために設計図が必要だと思うのですが、
私の場合、けっきょく自分でつくってしまうので」
出典:『トップランナー』(NHK 2007年7月21日放送)
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そう、ひとりで制作をする場合は、設計図がいらないケースもあるんですね。
作成にたずさわる人間は自分だけなので、頭のなかでちゃんと把握(はあく)しているのであれば、設計図がなくてもいっこうにかまいません。
小説のプロットの場合も、それが当てはまります。
小説はひとりで書くものなので、誰かと情報(物語)を共有する必要がありません。
そのため、頭のなかですでに物語が完成している場合は、わざわざプロットをかたちにして仕上げる必要はないんですね。
『きみの微笑みが嬉しくて』のときは、まさにそうでした。
モチーフを集めた時点で物語はすでに完成していたので、登場人物のディテール(細部)の設定をしたら、すぐに書きはじめることが可能でした。
小説家のなかには「プロットをつくらない」という強者(つわもの)もまれにいますが、それは小説が「ひとりでつくるもの」だからこそ可能なんですね。
時間をかけてアイデアを練る場合は、プロットを綿密に作成したほうが良い
「頭のなかで完璧に物語ができあがっている」
「設定をした時点で、もう書きはじめられるところまでできあがった」
そういう場合は、プロットを仕上げる必要はありません。
ですが、そうでない場合は、まだ物語ができていないので、そのまま書きはじめてしまうのはリスクが大きすぎます。
書く前にプロットを仕上げて、物語をかたちのあるものにしておかなければなりません。
長編の場合は、プロットの作成にも時間がかかりますので、やはりプロットはかたちにして仕上げておいたほうが賢明です。
僕の場合、『スピードでパワーファイターに勝つ』という作品では、およそ1年かけてプロットを仕上げました。
※『スピードでパワーファイターに勝つ』は、本条克明が以前に電子書籍として配信していたボクシング小説です。(現在は『月尾ボクシングジム物語』というサイトで、WEB小説として公開しています)
→スピードでパワーファイターに勝つ 目次ページ
→スピードでパワーファイターに勝つ 目次ページ
そんなに時間がかかった理由は――
キャラクターを設定したときに、主人公(カツオ)の対戦相手を、やたらと強く設定しすぎたからです(笑
- サークリング(フットワークで回り込むテクニック)が通用しない
- クリンチが通用しない
- 逆転のメソッド(ロープ・ア・ドープ作戦)が通用しない
- パンチが重く、とてつもない強打
- 打たれ強く、カツオのパンチが当たっても効かない
……さすがに、ちょっとやりすぎましたね(笑
この相手に勝つためには、どうすればいいのか?
そのアイデアをいくつも考えては、納得がいくものになるまで何度もプロットを練りなおし、その結果、やたらと時間がかかってしまいました。
でもまあ、その試行錯誤(しこうさくご)が楽しかったんですけどね(笑
時間をかけてアイデアを練り、物語を何度もつくりなおしたので、しっかりと書きとめておく必要がありました。
『スピードでパワーファイターに勝つ』のときは、かなり綿密にプロットを作成しています。
プロット(物語の構想)の仕上げ方(本条克明の場合)
プロットを完成させるやり方なのですが――
これについては、形式なんてありません。
はっきり言って、なんでもアリです(笑
小説というのは、基本的にひとりで創作します。
小説のプロットは、「自分ひとりのための設計図」です。
自分がわかるのであれば、どんな書き方でもかまいません。
そのため形式は存在せず、仕上げ方は人それぞれになります。
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僕の場合は、どういうふうに仕上げているのかと言うと……
やっぱり、なんでもアリです(笑
『スピードでパワーファイターに勝つ』の「プロット(決定案)」を読み返してみると、冒頭のところが次のようになっています。
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1 カツオ VS 烈 第一戦(↑であり↓ 対決シーンで盛りあがるが、結果は敗北)
真剣勝負のスパーリングを挑まれる(このスパーは、おそらくアレだ)
《中立の視点+カツオの視点》
カツオのライバルとなる若者、大賀烈が、彼が所属しているジムの会長とともに月尾ジムにやってくる。
神保マネージャーの口から、烈のジムには対等の条件でスパーリングできる相手がいないため、出稽古のようなかたちでやってきたことが説明される。目的は、おなじミニマム級でプロ候補生のカツオとスパーリングをするためだ。
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……最初から、いろいろな書き方をしてますね(笑
↑ や ↓ といった矢印は、物語の起伏のことです。
「この章は盛りあげるのか、それとも落とすのか」についての指示ですね。
※物語の起伏については、こちらをご参考ください。
→シンデレラ曲線というストーリーライン アメリカ的な「物語の基本」
→「物語の起伏」は、事件やトラブルが起こらなくてもつくれる?
僕の場合は、
- 全体を「章」に分割する
- 章の中身を複数の「節(シーン)」に分割する
- ストーリーの流れを見直し、効果的な起伏ができるように「節」の順序を入れ替える
という方法で「物語の起伏」を検証しています。
《中立の視点+カツオの視点》
というのは、「このシーンは誰の視点で描写するのか」の指示です。
この作品は三人称形式だったので、シーンごとに視点を切り替えています。
小説において「視点」というのはとても重要な要素ですので、プロットの段階で「誰の視点で描写するのか」を検証し、それを書きとめてあります。
その下の部分は、このシーンの「あらすじ」ですね。
もう少し先へ行くと、こんな書き方もしています。
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- 試合形式ということで、レフェリーがつく……月尾会長が担当。
- 観戦者(解説役)……星乃塚秀輝。今日はもう練習をあがるタイミングだった、という口実で。
- ビデオ係(応援、驚き役)……山木俊矢。MBジム会長・片倉衛二が月尾ジムのスタッフ(会長かマネージャー)に、今回のスパーを撮影しておいてほしいと頼み、練習中の俊矢を呼んで、ビデオ係を言いつける。
- ラウンドは4R。(C級ボクサーの通常のラウンド数)
- ヘッドギアを着用、グローブはスパーリング用の14オンス。
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箇条書き(かじょうがき)です。
状況設定なので、このほうがあとで読み返したときにわかりやすいと思ったんでしょうね、きっと。
※いまとなっては、自分でもなんでこんな書き方をしたのかよくわかりません(笑
さらにもう少し先へ進むと、こんな書き方もしています。
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《中立の視点+俊矢の視点》星乃塚「俊矢、ビデオを撮りながら、このスパーをしっかりと観戦しておけ。今回のスパーは、おそらくアレだ」
俊矢「アレ?」
星乃塚「このスパー、マネージャー(もしくは「あのドS」という言いまわし)が仕組んだのなら、カツオにとって厳しい闘いになる」
俊矢「…………」(星乃塚の厳しい言いまわしを聞き、緊張感がにわかに高まる)
星乃塚「そして、この闘いを観ることは、ほかのプロ候補生にとっても痛烈な経験になる――会長はそう判断して、俊矢にビデオ係を言いつけたんだ、(練習を中断して)このスパーを観せるためにな」
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いきなり、シナリオ形式になっています(笑
僕がプロットでこの書き方をするときは、
「登場人物の台詞(せりふ)が思い浮かんでいて、それを本編で採用したい」
と判断した場合です。
いま読み返してみると、シナリオ形式になっている部分がけっこうあるので、プロットの段階でけっこう台詞ができあがっていたんだなぁ……。
※作品が完成したあとで読み返すと、なんだか不思議な感じがします(笑
小説のプロットは、自分に対するやさしさが大事
日本では、プロットという言葉を「あらすじ」という意味で使うことがありますが、よくできた「あらすじ」というかたちでプロットを仕上げる作家が多いです。
とはいえ、小説におけるプロットは作家だけが見るものなので、書き方はやっぱり人それぞれです。
僕の場合は、
「あらすじで」あったり、
「箇条書き」であったり、
「シナリオ」であったり、
いろいろな書き方をしています。
いろいろな書き方をしていますが、一貫しているのは、
「自分に向けたメモ」
という意識で作成していることです。
あとで読み返したときに、そのときに考えていたことやイメージが鮮明に思い返せるように工夫して書いています。
プロットを仕上げるときは、
「このあと執筆をする作家(=自分)が、わかりやすいように」
という気持ちで作成すると、次の工程(執筆)がうんと楽になります。
やっぱり自分に対するやさしさや気配りですよね、「よくできた小説のプロット」というのは(笑
※本条克明の小説作法
→小説のモチーフを得る(1)
→小説の世界観・舞台を設定する(2)
→小説のキャラクター(登場人物)を設定する(3)
→小説のプロットを仕上げる(4) 当記事
→小説の執筆をする(5)
→小説の推敲・校正をする(6)
更新
2018年10月10日 『スピードでパワーファイターに勝つ』へのリンクを追加。
2019年5月22日 表記揺れを一ヶ所訂正。
2019年5月28日 画像の表示サイズを変更。
2024年7月27日 ページ内目次を追加。