2018年12月21日金曜日

「小説形式の実用書」という伝え方 表現の手段としての小説


「小説形式の実用書」というものがあります。

 というわけで今回は、
「小説形式の実用書」
 について、お話しいたします。


実用書を小説にして書く、という表現法


 現在、別サイトにて『うまくいく恋愛ができるようになるために』という作品を公開しています。

『うまくいく恋愛ができるようになるために』は恋愛相談をモチーフ(題材)にした本条克明の中編小説です。当初は電子書籍として販売していました。
 現在はWEB小説として『恋とは幸せなものなんだ』というサイトに掲載しています。(無料で読めますが広告の掲載があります)
目次 『うまくいく恋愛ができるようになるために』


 この作品は、「小説形式で書かれた実用書(恋愛本)」です。

 でね――

 僕自身、「小説形式の実用書」というものを書いてみて実感したのですが、この表現法、おもいのほかむずかしいです(汗

「小説形式で書かれてはいるけど、小説ではない」
 という矛盾(むじゅん)した形態だからです。

 そのため、
「物語性を、どのていど出していいのか?」
 ということで、ずいぶん頭をなやませました。

 改訂するたびにいろいろと手を加えて試行錯誤をくり返したのですが、いまだに「これが正解だ!」という着地点を見つけられずにいます。
 まさかこんなに苦労するなんて……
 完全に予想外でしたよ(苦笑


教師役と生徒役の会話がメイン


「小説形式の実用書」では、

一方の人物(教師の役割)が、
もう一方の人物(生徒の役割)に教える

 というかたちをとっていることが多いです。

 僕の作品、『うまくいく恋愛ができるようになるために』でも、

ラブマスター(恋愛の達人)の須藤賢策が、
恋愛における「心の使い方」を幸坂美冬に教える

 という表現方法をとっています。

 教師役と生徒役――そのふたりの会話がメインになるんですね。


 ……これ、逆を言うと、
「ふたりの会話以外は必要ない」
 ということでもあるんですね(苦笑

 つまり、
「要点を伝えるために、小説としての物語性はおさえたほうが良い」
 ということです。

話を盛りあげようとしたり――
トラブルや困難に巻き込まれたり――
意外な展開を演出したり――

 そういったことは、可能なかぎり控えたほうが賢明です。
 読者の多くは『小説』ではなく、『実用書』として読んでいるからです。


実用書を小説にして書くメリット


 実用書を「小説形式」で表現するメリット(利点)は、

  • 教師役の登場人物を通して語るほうが、説得力がある
  • 登場人物の会話で説明するため、文章が口語体(登場人物の語り口調)になり、おもしろみがだせる
  • 物語形式だと登場人物に感情移入できるので、言葉が心に響きやすい
  • 生徒役のリアクション(反応)によって、重要な部分を強調できる

 といったことだと思います。

 これらのメリットの面から言っても、できるかぎり物語性はおさえ、登場人物が要点だけを語ったほうが『実用書』を求めている読者に好まれると思います。

 とはいえ、小説形式をとっている以上、書き手としては『小説』としての完成度も看過(かんか)できないわけで……

 おそらくこの部分のバランスが、「小説形式の実用書」におけるいちばんの課題だと思います。


物語要素をオミットし、会話のみで構成する方法


『うまくいく恋愛ができるようになるために』では、恋愛講義の部分を「対話形式(対話篇、対話体小説)」で書いています。



 教師役と生徒役のふたりの会話がメインで、地の文(せりふ以外の説明の文)はほとんどありません。
 たまに挿入したとしても、小説のような物語を書くときの文体ではなく、シナリオのト書きのような感じで、最低限のことだけを簡潔に書いています。



 この「対話形式」という表現法、けっしてメジャー(一般的)ではありませんが、だからといって目新しいわけでもありません

 岸見一郎、古賀史健:著  ダイヤモンド社(2013年12月)
リンクはダイヤモンド社 様の書籍(こころ・心理)のページ。


 刊行以来いまだにヒットをつづけているこの本も、「対話形式の実用書(自己啓発書)」ですね。

 実用書を小説化(フィクション化)して表現する場合、「対話形式」がいちばん読者に好まれやすいのかもしれません。


 僕自身、『うまくいく恋愛ができるようになるために』の続編にあたる『どうして彼からのメールや電話がこなくなるのか?』という作品では、短編ということもあり、物語の要素をオミット(省略)して、「対話形式」のみで仕上げています。

『どうして彼からのメールや電話がこなくなるのか?』は恋愛相談をモチーフ(題材)にした本条克明の短編です。当初は電子書籍として販売していました。
 現在は『恋とは幸せなものなんだ』というサイトに掲載しています。
目次 『どうして彼からのメールや電話がこなくなるのか?』


 実用書を求めている読者に喜ばれやすい形式なので、もしかするとこれがいちばん良いやり方なのかもしれませんが――

 小説の書き手としては「物語の要素をもっといれたい」という思いがあるので、書きあげても物足りなさが心に残ってしまうんですよね。

 うーん……

 なやましいところですよね……(苦笑


さらなる小説の可能性は「小説形式」にあるのかもしれない


「物語の要素をどこまで出していいのか?」という課題がついてまわるので、けっして容易な表現法ではありません。

 ですが、情報を「小説」にして伝えるというやり方には多くのメリットがあります。

 堅苦しい文語体(書き言葉)で書かれた文章を読むより、登場人物の台詞で説明してくれたほうが、読んでいて楽しいですしね(笑


 ビジネス書や自己啓発書を小説にして書くというのは、すばらしいアイデアだと思います。

 小説のさらなる可能性は、
「表現の手段としての小説」
 にあるのかもしれませんね。


更新
2019年2月23日 リンクを追加。
2019年4月5日 文章表現を一ヶ所改訂。
2019年5月9日 文章表現を一ヶ所改訂。
2024年1月7日 記事内の広告を削除。広告に関する記述の削除。広告の削除にともないリンクを追加。