「物語をおもしろくするのは『謎』の要素である」
そのように考えている人も多いかと思います。
たしかに『謎』の要素は、読者を物語に惹きつける効果があります。
ですので、プロットを作成するときに、
「この話に『謎』の要素を盛り込むことができるだろうか?」
「『謎』の要素をいれるとしたら、どうやって盛り込むのか?」
ということについて、検討する価値があると思います。
※プロットの意味についてはこちらをご参照ください。
→小説におけるプロットとは?
僕の場合は、
「『謎』の要素には、細心の注意を払わなければいけない」
と考えています。
作中に『謎』の要素を盛り込んだときは、気をつけなければいけないことがあるんですね。
『謎』の要素は、簡単につくれる
まずは、
「『謎』の要素のつくり方」
について、お話しいたします。
「物語に『謎』をつくるのって、なんだかすごくむずかしそう……」
そんなふうに感じている人もいるかと思います。
ですが、実際はそんなことありません(笑
よほど凝った『謎』でなければ、『謎』の要素は簡単につくれます。
だって、物語における『謎』って、
「作家にとってはわかりきっていることを、読者には知らせずに伏せておく」
たったそれだけのことなんですから(笑
物語のなかに『謎』の要素をつくる方法
プロットの段階で、すでに設定してあること――
すなわち、
「作者である自分は、とうぜん知っていること」
を読者には教えずに話を進めていきます。
その教えずに伏せている部分が『謎』の要素になります。
作家にはわかっていることを、(ほのめかすだけで)明かさないままでいる――
それだけで、どんなことでも『謎』にすることができます。
たとえば、作中にこんなシーンがあったとします。
**********
ホンジョー警部は、捜査チームの刑事たちに指示をだした。
刑事たちはみな、驚いた顔をしている。ホンジョーの指示が断定的で、自信に満ちあふれていたからだ。
「ホンジョー警部――」
刑事のひとりが、ホンジョーにたずねた。
「もしかすると、警部はすでに真犯人が誰だかわかっているのではありませんか?」
刑事たちの視線が、ホンジョーに集中する。
じつのところ、ホンジョーはまだ真犯人が誰だかわかっていない。容疑者の目星(めぼし)すらついていない。
だが、捜査の方向性が正しいことと、着実に真相に近づいていることは、長年の捜査経験によって確信をもっていた。
ホンジョーは刑事たちを一瞥(いちべつ)し、そして、突き放すように言った。
「よけいなことは考えるな。おまえたちは俺の指示どおりに動いていれば、それでいいんだ」
**********
この記述の一部(濃い青文字の部分)をはぶいて、読者には教えないようにしてみましょう。
つまり、↓こうです。
**********
ホンジョー警部は、捜査チームの刑事たちに指示をだした。
刑事たちはみな、驚いた顔をしている。ホンジョーの指示が断定的で、自信に満ちあふれていたからだ。
「ホンジョー警部――」
刑事のひとりが、ホンジョーにたずねた。
「もしかすると、警部はすでに真犯人が誰だかわかっているのではありませんか?」
刑事たちの視線が、ホンジョーに集中する。
ホンジョーは刑事たちを一瞥し、そして、突き放すように言った。
「よけいなことは考えるな。おまえたちは俺の指示どおりに動いていれば、それでいいんだ」
**********
これで、
「ホンジョー警部は真犯人を知っているのだろうか?」
「もし真犯人がまだわかっていないのなら、ホンジョー警部はなぜ捜査の指示に自信をもっているのだろうか?」
ということが『謎』の要素になりましたね。
『謎』をつくるときの原理はすべておなじ
『謎』という響きから、「複雑で難解な事件」や「巧妙なトリック」などを思い浮かべる人も多いかと思いますが――
そういったミステリー小説的な『謎』にかぎったことではなく、どんな種類の『謎』であれ、原理はすべておなじです。
作者にはわかりきっていることを、読者には教えずに(ほのめかしておいて)話を進めていく――
それだけで、どんなことでも『謎』にすることができるんですね。
そして、たとえ小さな『謎』であっても、物語のなかに『謎』の要素がふくまれていると、読者を惹きつける力がアップします。
かくされたまま明かされていない事柄があると、読者は無意識レベルでそのことが気にかかるため、先を読み進めたくなるからです。
『謎』の要素には、気をつけなければいけないことがある
「そうか、『謎』というのは簡単につくれるんだな。
しかも、『謎』には読者を惹きつける力がある。
ということは、たくさん『謎』をつくって、真相を明かすのをできるだけ長く先送りにすれば、読者をずっと惹きつけておけるってことだな!」
もしかすると、そんなふうに思った人もいるかもしれませんが……
でも、そんな安易(あんい)な発想に流れちゃダメです(笑
『謎』の要素というのは、つくるのは簡単でも、あつかいには気をつけないといけない代物(しろもの) なんですね。
どこに気をつけるのか、と言うと――
それはもちろん、「真相(答え)を明かすタイミング」です。
『謎』の要素がうまくいくかどうかは、作家のセンス(読者に対する気配り)にかかっている
『謎』の要素で読者を惹きつける手法は、「読者の心にストレス(負荷)をかける」という方法です。
『謎』が『謎』のままだと落ち着かない、気になる、モヤモヤする――
そのストレスをかけることによって、物語へと引き込んでいるんですね。
ですので、次から次へと『謎』を積み重ねてしまうと、読者は大きなストレスを感じてうんざりします(汗
また、『謎』を提示したままいつまでも真相を明かさずにいると、読者は長いストレスに疲れてしまい、嫌気を感じてその物語を見かぎってしまいます(瀧汗
物語のなかに『謎』を盛り込んだときは、「真相(答え)を明かすタイミング」に細心の注意を払う必要があるんですね。
そして、『謎』を明かすもっとも良いタイミングは……
こればかりは、やっぱり作家のセンス(感性、感覚)ですよね。
『謎』が「心地よいストレス」となるように、最適なタイミングで真相を明かす――
その判断力は、
「読者の気持ちになって、物語をつくる」
という個々のセンスによって発揮されるんだと思います。
僕の場合は、
●『謎』をつくったときは、早めに明かしてスッキリしてもらう
●『謎』の要素で読者を長く惹きつけておきたいときは、
ひとつの『謎』を長く引っ張るよりも、
「ひとつの『謎』が明かされたら、また新たな『謎』が浮かびあがる」といったかたちで、ストレスとスッキリをくり返しながら『謎』を長期化させたほうが良い
ということを意識して、『謎』の要素が「ほどよいストレス」となるように心がけています。
細心の注意が必要だけど、『謎』の要素を盛り込むことができるかどうか、プロットを作成するときには検討しよう
プロットを作成したら、
「この話に『謎』の要素はつくれないだろうか?」
「読者に伏せておいたほうが効果的な部分はないだろうか?」
ということを検討する価値は、おおいにあると思います。
真相を明かすタイミングが適切であれば、『謎』の要素はあなたの物語をより魅力的にしてくれるからです。
今回のお話は、あくまでも「本条克明の考え方」ではあるのですが、プロットに『謎』を盛り込むときの参考になさってみてください。
※プロット作成の注意点に関するほかのお話
→小説(物語)におけるリアリティは、「現実的」でなくてもかまわない
→「事実は小説よりも奇なり」は、小説家にとっては当たり前
更新
2018年9月4日 関連している記事のリンクを追加。