2018年2月17日土曜日

物語における『謎』のつくり方と、気をつけなければいけないこと


「物語をおもしろくするのは『謎』の要素である」
 そのように考えている人も多いかと思います。

 たしかに『謎』の要素は、読者を物語に惹きつける効果があります。
 ですので、プロットを作成するときに、
「この話に『謎』の要素を盛り込むことができるだろうか?」
「『謎』の要素をいれるとしたら、どうやって盛り込むのか?」
 ということについて、検討する価値があると思います。

プロットの意味についてはこちらをご参照ください。
小説におけるプロットとは?


 僕の場合は、
「『謎』の要素には、細心の注意を払わなければいけない」
 と考えています。
 作中に『謎』の要素を盛り込んだときは、気をつけなければいけないことがあるんですね。


『謎』の要素は、簡単につくれる


 まずは、
「『謎』の要素のつくり方」
 について、お話しいたします。

「物語に『謎』をつくるのって、なんだかすごくむずかしそう……」
 そんなふうに感じている人もいるかと思います。

 ですが、実際はそんなことありません(笑
 よほど凝った『謎』でなければ、『謎』の要素は簡単につくれます

 だって、物語における『謎』って、
「作家にとってはわかりきっていることを、読者には知らせずに伏せておく」
 たったそれだけのことなんですから(笑


物語のなかに『謎』の要素をつくる方法


 プロットの段階で、すでに設定してあること――
 すなわち、
「作者である自分は、とうぜん知っていること」
 を読者には教えずに話を進めていきます。

 その教えずに伏せている部分が『謎』の要素になります。

 作家にはわかっていることを、(ほのめかすだけで)明かさないままでいる――
 それだけで、どんなことでも『謎』にすることができます


 たとえば、作中にこんなシーンがあったとします。

**********
 ホンジョー警部は、捜査チームの刑事たちに指示をだした。
 刑事たちはみな、驚いた顔をしている。ホンジョーの指示が断定的で、自信に満ちあふれていたからだ。

「ホンジョー警部――」
 刑事のひとりが、ホンジョーにたずねた。
「もしかすると、警部はすでに真犯人が誰だかわかっているのではありませんか?」

 刑事たちの視線が、ホンジョーに集中する。

 じつのところ、ホンジョーはまだ真犯人が誰だかわかっていない。容疑者の目星(めぼし)すらついていない。
 だが、捜査の方向性が正しいことと、着実に真相に近づいていることは、長年の捜査経験によって確信をもっていた。

 ホンジョーは刑事たちを一瞥(いちべつ)し、そして、突き放すように言った。
「よけいなことは考えるな。おまえたちは俺の指示どおりに動いていれば、それでいいんだ」
**********


 この記述の一部(濃い青文字の部分)をはぶいて、読者には教えないようにしてみましょう。

 つまり、↓こうです。

**********
 ホンジョー警部は、捜査チームの刑事たちに指示をだした。
 刑事たちはみな、驚いた顔をしている。ホンジョーの指示が断定的で、自信に満ちあふれていたからだ。

「ホンジョー警部――」
 刑事のひとりが、ホンジョーにたずねた。
「もしかすると、警部はすでに真犯人が誰だかわかっているのではありませんか?」

 刑事たちの視線が、ホンジョーに集中する。

 ホンジョーは刑事たちを一瞥し、そして、突き放すように言った。
「よけいなことは考えるな。おまえたちは俺の指示どおりに動いていれば、それでいいんだ」
**********

 これで、
「ホンジョー警部は真犯人を知っているのだろうか?」
「もし真犯人がまだわかっていないのなら、ホンジョー警部はなぜ捜査の指示に自信をもっているのだろうか?」
 ということが『謎』の要素になりましたね。


『謎』をつくるときの原理はすべておなじ


『謎』という響きから、「複雑で難解な事件」や「巧妙なトリック」などを思い浮かべる人も多いかと思いますが――

 そういったミステリー小説的な『謎』にかぎったことではなく、どんな種類の『謎』であれ、原理はすべておなじです。

 作者にはわかりきっていることを、読者には教えずに(ほのめかしておいて)話を進めていく――
 それだけで、どんなことでも『謎』にすることができるんですね。

 そして、たとえ小さな『謎』であっても、物語のなかに『謎』の要素がふくまれていると、読者を惹きつける力がアップします

 かくされたまま明かされていない事柄があると、読者は無意識レベルでそのことが気にかかるため、先を読み進めたくなるからです。


『謎』の要素には、気をつけなければいけないことがある


「そうか、『謎』というのは簡単につくれるんだな。
 しかも、『謎』には読者を惹きつける力がある。
 ということは、たくさん『謎』をつくって、真相を明かすのをできるだけ長く先送りにすれば、読者をずっと惹きつけておけるってことだな!」

 もしかすると、そんなふうに思った人もいるかもしれませんが……

 でも、そんな安易(あんい)な発想に流れちゃダメです(笑

『謎』の要素というのは、つくるのは簡単でも、あつかいには気をつけないといけない代物(しろもの) なんですね。

 どこに気をつけるのか、と言うと――

 それはもちろん、「真相(答え)を明かすタイミング」です。


『謎』の要素がうまくいくかどうかは、作家のセンス(読者に対する気配り)にかかっている


『謎』の要素で読者を惹きつける手法は、「読者の心にストレス(負荷)をかける」という方法です。

『謎』が『謎』のままだと落ち着かない、気になる、モヤモヤする――

 そのストレスをかけることによって、物語へと引き込んでいるんですね。

 ですので、次から次へと『謎』を積み重ねてしまうと、読者は大きなストレスを感じてうんざりします(汗

 また、『謎』を提示したままいつまでも真相を明かさずにいると、読者は長いストレスに疲れてしまい、嫌気を感じてその物語を見かぎってしまいます(瀧汗

 物語のなかに『謎』を盛り込んだときは、「真相(答え)を明かすタイミング」に細心の注意を払う必要があるんですね。

 そして、『謎』を明かすもっとも良いタイミングは……

 こればかりは、やっぱり作家のセンス(感性、感覚)ですよね。

『謎』が「心地よいストレス」となるように、最適なタイミングで真相を明かす――
 その判断力は、
「読者の気持ちになって、物語をつくる」
 という個々のセンスによって発揮されるんだと思います。


 僕の場合は、

『謎』をつくったときは、早めに明かしてスッキリしてもらう

『謎』の要素で読者を長く惹きつけておきたいときは、
 ひとつの『謎』を長く引っ張るよりも、
「ひとつの『謎』が明かされたら、また新たな『謎』が浮かびあがる」といったかたちで、ストレスとスッキリをくり返しながら『謎』を長期化させたほうが良い

 ということを意識して、『謎』の要素が「ほどよいストレス」となるように心がけています。


細心の注意が必要だけど、『謎』の要素を盛り込むことができるかどうか、プロットを作成するときには検討しよう


 プロットを作成したら、
「この話に『謎』の要素はつくれないだろうか?」
「読者に伏せておいたほうが効果的な部分はないだろうか?」
 ということを検討する価値は、おおいにあると思います。

 真相を明かすタイミングが適切であれば、『謎』の要素はあなたの物語をより魅力的にしてくれるからです。

 今回のお話は、あくまでも「本条克明の考え方」ではあるのですが、プロットに『謎』を盛り込むときの参考になさってみてください。


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更新
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