2024年10月5日土曜日

政府を信頼している国では、国民のマインド(心理)がすごい


 昨日(2024年10月4日)、石破茂(いしば しげる)内閣総理大臣が、衆院本会議で就任後初の所信表明演説をおこないました。

 この所信表明演説のなかで、

「政治資金問題などによりうしなった国民の皆様からの信頼をとりもどし―<下略>―」
「政治資金問題でうしなわれた政治への信頼をとりもどすとともに―<下略>―」
「国民の皆様方にもう一度、政治を信頼していただくため、私自身も説明責任を果たし―<下略>―」

 といった政治への「信頼」に関する発言がたびたびありました。

 この発言に、私は違和感をおぼえました。
 抵抗を感じるくらいに、違和感をおぼえました。


 ところで、ちょっとお訊きしたいのですが――

 あなたは税金を「喜んで払いたい」と思いますか?
 税金を「もっと払ってもいい」と思っていますか?


国民が政府を信頼すると……


 日本では、「節税」や「税金対策」をおこなうのがあたりまえであるかのような社会的風潮があります。

 そりゃ、誰だって高い税金を払いたくはありませんよ。
 私だってそうですよ。

 ですが、政府や政治家が「善政」をおこなっている国では、税金に対するマインド(心理)が異なります、


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国民が政府を信頼している国


 北欧のデンマークは、国土面積は九州とおなじくらいで、人口は600万人弱で千葉県民よりも少なく、国家規模としては小さな国です。

 ですが、国連が2016年に発表した「世界幸福度報告書」で1位に選ばれており、「世界でもっとも幸せな国」と言われています。

 また、2022年、2023年と2年連続で国際競争力1位に輝いています。

 幸せで、豊かで、まさに本当の「先進国」ですね。


 先日に読んだデンマークに関する書籍に、こんな記述がありました。

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 ハッセは高給をもらい、高い税金を納めている。
 高い税金を払うことについてどう思うかと尋ねてみたところ、即答された。

「僕はとても喜んで税金を払ってるし、もっと税金を払ってもいいくらいだ」

 驚くかもしれないが、デンマークでは、ハッセのような回答をする人がとても多い。
 彼らの頭のなかで、税金を払うことイコール社会貢献なのだ。
 その背景には、政府が信頼できるという、デンマーク政府と国民の関係性がある。
 デンマーク国民は、日常生活を通じて、政府が税金をきちんと使うべきところに使っていると感じているのである。

出典:『デンマーク人はなぜ4時に帰っても成果を出せるのか』
   針貝有佳:著  PHPビジネス新書(2023年)

ネット上で読みやすいように改行を増やして体裁(ていさい)を整えてあります。

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 著者の針貝有佳(はりかい ゆか)先生は、この記述のなかで「驚くかもしれないが」という言葉を使っていますが――

 驚きましたよ、心の底から!

私は喜んで税金を払っている――
もっと税金を払ってもいい――

 そんなことを言う人――そんな考え方をする人に、私は出会ったことがありません。
 50年以上、生きてきましたが、そんな人は見たことも聞いたこともありません。

 しかし、デンマークでは「税金は喜んでたくさん払う」と考えている人が多いそうです。

 すげぇ……。

「政府が善政をおこない、国民の信頼を得ると、国民のマインド(心理)はこうなるのか」
 と、本当に驚嘆しました。


言葉から読みとれた本音


 デンマークでは「税金は喜んで払う」という人が多い理由について、

政府が信頼できるという、デンマーク政府と国民の関係性がある――
デンマーク国民は、日常生活を通じて、政府が税金をきちんと使うべきところに使っていると感じている――

 と、針貝先生は述べていますね。


 日本で「税金をもっと払ってもいい」と思っている人がほとんどいないのは、政府と国民の信頼関係が、デンマークとは正反対だからです。

 税金をしっかり納めれば、政府が税金をきちんと使うべきところに使ってくれる――
 そんなことはとても信じられない。
 だから、できるだけ税金は払いたくない。
「節税」や「税金対策」に励んで、できるかぎり税金を払わずにすませたい。

 政府や政治家が信頼できないので、そういうマインド(心理)にしかならない――
 それが、日本の実情だと思います。

 つまり、
「日本の政府、日本の政治家は、もとからずっと、国民に信頼されていなかった」
 ということです。


 冒頭の話にもどりますが、私が石破首相の言葉に違和感をおぼえた理由は、まさにそこなんですね。

「国民の皆様からの信頼をとりもどし――」
「政治資金問題でうしなわれた政治への信頼をとりもどす――」
「国民の皆様方にもう一度、政治を信頼していただくため――」

 この言葉、
「政治資金問題によって(はじめて)信頼がうしなわれた」
「それ以前の政府や政治家は、国民に信頼されていた」
 ということが前提になっていますよね。

 その前提、明らかにまちがってますよ!

日本の国民は、もとからずっと、政府や政治家を信頼していなかった――
今回の政治資金問題で、政府や政治家は、さらに信頼をうしなった――

 それが事実です。


 私はべつに、言葉の揚(あ)げ足をとっているわけではありません。
 ただ、作家という「言葉の専門家」の立場からすると、
「国民の信頼は、政治資金問題が発覚する以前のレベルまでもどせれば、それでいい」
 という心理が言葉から読みとれてしまうので、私としては嫌悪感をおぼえます。

 首相の言葉からは、本気で国民の信頼を得ようとしているとは、とても思えません。

 もし石破首相が「信頼をとりもどす」ではなく、
「国民の皆様の信頼を得るために――」
 という言葉の使い方をしていたら、私は違和感をいだくことはなかったと思います。

 正直、残念な演説でしたね……。


猫が好きな宰相に、わるい宰相はいない?


 実を言うと、石破総理は「人物」としてかなり好きです。

 だって、愛猫家なんですよ。
 そりゃ好感度が高いですよ。

当サイトの管理人・本条克明も猫を飼っています。


 ですが、
「政治資金問題が発覚する以前の状態までもどせればいい」
 という考え方では、意識レベルが低すぎます。

税金は喜んで払う――
もっと税金を払ってもいい――

 国民のマインド(心理)がそのように変わるくらい、政府に対する信頼を高めてほしいと願います。

 石破内閣の「善政」に、期待したいよなぁ……。

 猫が好きな人に、わるい人はいないはずですから――


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