やりたいことをやって生きていく――
好きなことを仕事にする――
それについては、思うところが多々あります。
私自身、好きなこと、やりたいことをやって生きてきたので、その喜びや、それにともなう苦悩を経験してきました。
今回は、
「好きなこと、やりたいことをやって生きていく」
ということについて、お話しいたします。
好きなことをやって生きるために
ページ内目次
どうして好きなこと、やりたいことをやらないのか?
2024年10月22日、NHK Eテレで、
『おとなのEテレタイムマシン わたしの青春ノート 水木しげる』
という番組が放送されました。
1987年9月19日放送の『わたしの青春ノート
水木しげる』の4Kリマスター版です。
当時63歳の水木しげる先生が、女子高校生ふたりと男性アナウンサーを聞き手にして、生い立ちや戦争体験、漫画家として成功するまでの苦労を、ユーモアをまじえながら語っています。
これ、ものすごく貴重な映像ですよ。
この番組のなかで、水木しげる先生はこのようなことを語っています。
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「いまの高校生の人たちは恵まれてますよね、我々の時代よりもね。
我々はやっぱり社会的な制限――戦争中でしたか――戦争前ですからね。いろいろなあれがあって自由にいかなかった。
いまは、わりと自由があるわけですよね。
――<中略>――
やろうと思えばできるし、自分で好きな希望も立てられるわけですよね。
そうであれば、どうして好きなことにばく進するとか、やりたいことをやらないのかって気がしますよね」
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水木先生の「ばく進」という言葉の使い方に、作家として感銘を受けました。
※ばく進 …… 勢いよく、まっしぐらに進むこと。
(『爆進』という表記は誤り。正しい漢字の表記は『驀進』)
好きなことにばく進――
いいフレーズだよなぁ。
「ばく進」という言葉を使うことで、脇目もふらずに夢中になって突き進む感じが伝わってきます。
このフレーズ、私も使うようにしよう(笑
*
話がそれてしまいましたが――
水木しげる先生は上述の番組のなかで、
「(若い人たちが)どうして好きなことをしないのか、ふしぎなんです」
ということを、たびたび口にしていました。
私も、水木先生に同感です。
好きなこと、やりたいことがあるのなら、その道に進んだほうが良いと思います。
ですが、だからと言って、
「やりたいことをやれ」とか、
「好きなことをやらないのはけしからん」とか、
そういうことを言うつもりはありません。
やりたいことをやらない人たちのことも、理解できるからです。
若い人たちが「好きなこと」や「やりたいこと」をやらない理由
水木先生は、
「どうして好きなことをしないのか、ふしぎに思う」
と、くり返し言っていましたが……。
おそらく、水木先生も本当はわかっていたと思います。
というのも、
「いまの高校生の人たちは恵まれてますよね、我々の時代よりもね」
「いまは、わりと自由があるわけですよね」
「やろうと思えばできるし、自分で好きな希望も立てられるわけですよね」
そのように語っているからです。
自由があるので、「やりたいこと」や「好きなこと」は、やろうと思えばできる――
まさにそのことが「やりたいことをやって生きる」という選択をしない理由なんですね。
実際、作家や漫画家など、クリエーティブな仕事をしている人の多くが、一度は就職し、会社勤めや役所勤めを経験しています。
やりたいことをやらない――
好きなことを仕事にしない――
一度、その選択をしているんですね。
その結果、
「やっぱり、やりたいことをやるべきだ」
「私は、自分の好きなことを仕事にしたい」
「好きなことをやらないと、生きている実感がない」
そういった自分の本心に気づいて、人生の軌道修正をした人がとても多いんですね。
つまり、
「やりたいことが、まったくできない生活(毎日やりたくないこと、興味のないことをやらされる生活)」
それを経験したからこそ、「好きなことをやって生きる」という決断ができたということです。
水木先生の場合は、戦争によって自由をうばわれる経験をしたので、「好きなことにばく進する」という選択をすることに、まよいがありませんでした。
やりたいことをやって生きていく
好きなことを仕事にする
それは、たいへんな決断です。
日本のように同調圧力が異常なほど強い社会では、相当な覚悟がなければできません。
みんなとおなじように、就職して、イヤな仕事をがまんしながらやって、毎月の給料をもらう――
その道を選んだほうが安心できます。
「好きなことをやって生きていく」という決断をするには、かなりの覚悟が必要です。
その覚悟を決めるためには、「やりたいことができない」という苦悩を、どこかで経験しなければなりません。
ですので、人生経験のすくない若い人たちが、その覚悟を決められないのは、ある意味とうぜんのことだと言えるんですね。
「好きなことを仕事にする」というジレンマ
「好きなことを仕事にする」という選択をすると、ジレンマ(矛盾していることによる苦悩)におちいる可能性があります。
「好きなこと」と「お金を稼ぐこと」が、両立しないからです。
ちょっと考えてみてください。
あなたの好きなこと――趣味であったり、道楽であったり、遊びであったり、そういったことは、「それでお金を稼(かせ)ごう」というたぐいのものではありませんよね?
それとは逆に、「それにだったら、おしみなくお金をつぎ込める」という性質のものですよね?
そう、「本当に好きなこと」というのは、「お金を稼ぐ」とは対極に位置していることが多いんですね。
私もそのジレンマにずっとなやまされています。
作家という仕事が好きでこの活動をやっているのですが、しかし、これで大金を稼ごうという気持ちには、どうしてもなれません。
むしろ、「お金があったら、もっと作家の仕事をやるために使いたい」という逆の気持ちのほうが強いです。
ぶっちゃけ、もっとお金になるやり方があるのはわかってます。
ですが、それをやったら「自分のやりたいこと」からはずれてしまうので、どうしてもやる気になれません。
その結果、
好きなことをやっているけど、お金にならない
「好きなこと」が「仕事」として成立しない
ということになるんですね。
私はこのジレンマにずっと苦悩してきました。
そして、いまでもなやみつづけています。
うぅぅぅぅん……。
どうしたものかなぁ……。
*
あなたがもし「本当に好きなこと」や「どうしてもやりたいこと」を仕事に選んだ場合は、このジレンマにおちいる可能性があります。
それは、知っておいたほうが良いと思います。
「好きなこと」と「お金を稼ぐこと」――
それを両立させる落としどころを見つけないかぎり解決できない問題なのですが、このことを前もって知っておくことで、ジレンマをさけてとおることが容易になるからです。
好きを仕事にしたら、突き進むしかない
株式会社海洋堂の宮脇修一(みやわき しゅういち)
センムは、2013年に出演したテレビ番組(当時は社長)のなかで、次のように語っています。
※宮脇修一専務の愛称はカタカナで「センム」なので、その愛称を当サイトでは敬称として使用しています。
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「好きなことを仕事にしてしまうと、それはそれで、そういう戦いをはじめてしまった以上は、そこにあまえることもできないですよね。
『そのていどのことで、おまえ、好きと言うとったらあかんやろ』っていうのは――そういう意識はすごく強いと思います」
出典:『プロフェッショナル 仕事の流儀「模型会社社長・宮脇修一」』
NHK総合 2013年7月8日放送
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宮脇センムは、好きなことを仕事にするのは「戦い」だと言っていますね。
私も「戦い」だと思います。
好きを仕事にするという道を選んだ以上、もうあともどりはできない――それぐらいの切迫した気持ちがなければ、つづけていくことはできないと思います。
なかなかうまくいかなかったり――
人からさげすまされたり――
たとえそのような目に遭(あ)ったとしても、「好きなこと」、「やりたいこと」としてはじめた以上は、途中でやめたり、引き返したりはできません。
もうがんばれない、もう努力できない、というのであれば、自分が言っていた「好き」は欺瞞(ぎまん)だったということになります。
本当に好きなことであれば、努力できるはずだからです。
自分の「好き」を仕事にしたからには、あまえたり、あともどりはできません。
それこそ、「ばく進」する必要があります。
やりたいことをやり、「自分のための人生」を生きる参考になさってみてください。
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