読者の心の奥深くまで響くような文章が書きたい――
作家なら誰でも願うことだと思います。
僕自身もそれを切に願い、試行錯誤した時期があります。
そして、その『答え』として、
「潜在意識に伝わる言葉の使い方をする」
という方法にたどり着き、研究と考察を重ね、言葉の使い方を工夫しました。
僕が以前に公開していた『〈いま幸せ〉を実践する方法』という電子書籍に掲載したお話のリライトになりますが、今回は潜在意識の性質を応用した文章法のひとつ、
「否定形の使い方」
についてお話しいたします。
否定形がわからない(潜在意識の性質)
潜在意識には、否定形が理解できません。
つまり、
「~ない」
「~ではない」
といったたぐいの言いまわしが解釈できないのです。
簡単な例をあげてみましょう。
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今から言うことを、イメージしないでください。
「あなたの目の前に、白くて可愛らしい子猫がちょこんと座っていません」
イメージしないでください。
「その白い子猫は、うるうるした瞳で、あなたのことを見上げていません。そして、あなたに何かを訴えるかのように『みゃあ』と、か細い声で鳴きませんでした」
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どうでしょう?
ほとんどの人が、前もって「イメージしないでください」と言ってあったにもかかわらず、子猫が思い浮かんだと思います。
でも、くやしがったりしないでくださいね、それはきわめて正常なんですから(笑
先ほどの文章、潜在意識にはこのように聞こえています。
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今から言うことを、イメージしてください。
「あなたの目の前に、白くて可愛らしい子猫がちょこんと座っています」
イメージしてください。
「その白い子猫は、うるうるした瞳で、あなたのことを見上げています。そして、あなたに何かを訴えるかのように『みゃあ』と、か細い声で鳴きました」
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否定形が理解できませんので、潜在意識ではことごとく肯定形として解釈されます。
心理学では心のなかで意識(顕在意識)が占めている割合は3~30パーセントだと言われています。
つまり、潜在意識が70~97パーセントもの割合を占めているわけです。
そのため、意識と潜在意識が対立した場合、ほぼ確実に潜在意識が勝ちます。
※意識(顕在意識)は氷山の一角にすぎない
日常生活で「否定形」を活用する
この「否定形が理解できない」という潜在意識の性質を知っておくと、日常のさまざまな面で役に立ちます。
たとえば、「失敗しない」という言い方と、「成功する」という言い方では、意味はおなじでも潜在意識に対する影響はまったくちがいます。
「失敗しない」と言えば、潜在意識は「失敗」をイメージします。
「成功する」と言えば、潜在意識は「成功」をイメージします。
なぜ潜在意識が否定形を理解できないのかと言うと、潜在意識がイメージ思考だからです。
イメージというのは「ある」か「ない」かの二進法です。
「ある」けどそれはちがう、というイメージはできません。
「ある」のなら、それはそのとおりに「ある」のです。
映像を見せておいて「この映像は存在しません」と言っても、映像を見てしまったあとでは打ち消すことができないからです。
潜在意識というのは、そのように考えているんですね。
*
余談になりますが、僕がむかし、ボクシングをやっていたときのお話を――
プロのボクサーは試合が近づくと、みな意識的にポジティブ・シンキング(積極思考、プラス思考)をはじめます。
「俺は強い!」「俺は勝つ!」
「俺がキングだ!」
といったフレーズを、たえず頭のなかでくり返します。
そんなふうに自己暗示をかけている最中(さいちゅう)ですので、人と話をしていても自然と強気な言葉が多くなります。
「今度の試合、俺は絶対に勝つぜ」
などと言って、仲間を安心させてくれます。
ところが、ボクサーはときどきこういう言い方をすることがあります。
「俺は負けない! 今度の試合、絶対に負けたくねぇんだ!」
……かなり危険信号です。
本人が無意識のうちに「勝つ」ではなく「負けない」という言葉を使っているんですね。
これは、勝つイメージができずに自信をうしなっている心理のあらわれだったりします。
こんなふうに、使っている言葉から相手の本心が見えることもあります。
否定的なことを言わなければいけないとき、否定形を使うと相手に肯定イメージを与えることができる
「否定形が理解できない」という潜在意識の性質は、意識的に使いこなすととても効果があります。
もっとも有効なのが、否定的なことを言わなければいけないときです。
相手のミスを指摘したり、叱ったりしなければいけない場面に直面したとき、この性質がおおいに活かせます。
- 「お前はまちがってる」 → 「きみのやり方は正しくない」
- 「だから失敗するんだ」 → 「それだと成功しないよ」
- 「頭わるいな」 → 「賢明じゃないな」
つまり、「正しい」、「成功」、「賢明」といった肯定的な言葉を使いながら、それを否定形にして相手に伝えるのです。
言っている意味はおなじでも、相手の潜在意識には「正しい」や「成功」、「賢い」といった良いイメージを残すことができます。
文章で「否定形」を活用すると、読者に肯定感を与えることができる
潜在意識の「否定形が理解できない」という性質は、文章を書くうえでおおいに役立ちます。
この性質を理解していると、あなたは否定形の使い方を工夫するようになります。
そして、読者の潜在意識に『肯定的なイメージ』を伝える文章が書けるようになります。
潜在意識に『肯定的なイメージ』が伝わると、読者は『肯定感 = 快』を感じます。
そして、あなたが書いた作品に対して、
「おもしろい」
「いい作品」
という印象をいだいてくれます。
否定形の言葉の使い方は奥が深い
意思を伝えるためにはどうしても否定的な言いまわしをしなくてはならないことがあるので、すべての言葉を肯定的に使うことはできません。
ですが、少しでも多く肯定的な言葉を使うようにすると、相手の心に良いイメージを与えることができます。
また、文章を書くときに肯定的な言葉を多く使うと、書いている本人にも『肯定的なイメージ』が呼び起こされるため、作家自身の肯定感が高められていきます。
僕が書く文章は、言葉の使い方を工夫して、潜在意識に良いイメージが残る文章を心がけているのですが、否定形を活用した言葉の使い方は本当に奥が深いです。
まだまだいろいろと応用ができることを、日々、思い知らされています。
これもまた、作家修業ですね(笑
※潜在意識の性質に関するほかのお話
2024年12月6日 リンクを追加。
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