2019年12月6日金曜日

小説プロット作法(本条克明の覚え書き)


 この記事は、本条克明の覚え書き(忘れないように書きとめたもの)をほぼそのままのかたちで掲載しています。
「覚え書き」なので人にお見せすることを意識して書いたものではないのですが、よろしければご参考ください。


プロット(物語)作成についての覚え書き


物語には起伏、浮き沈みが必要


 物語には起伏が必要。
 落ち込むところ、盛りあがるところ――その浮き沈みがあってこそ物語は成り立つ。

 何よりも、心の起伏、感情の浮き沈みが重要
 登場人物――主人公の心の変化が、ドラマをつくる。


 効果的な起伏をつくるには対比が有効。
 わるい状態と良い状態、不快と快――その対比によって物語の起伏、浮き沈みが生まれる。

こちらをご参考ください。
シンデレラ曲線というストーリーライン アメリカ的な「物語の基本」
「物語の起伏」は、事件やトラブルが起こらなくてもつくれる?


めりはり(強弱)を使ったストーリー作成法


 物語の起伏をつくる方法は、浮き沈み(上げ下げ)だけではない。
 めりはり(強弱)を使う、という方法もある。

穏(おだ)やかなシーンと、緊迫したシーン
ゆるやかな展開と、急激な展開
ゆるいシーンと、激しいシーン

 これらの変化を活用することで、ストーリーに起伏とおもしろみをだすことができる。

映画『ルパン三世 カリオストロの城』の序盤のシーンが好例。
(ルパンと次元、車のタイヤを交換するシーンで)カリオストロ公国の自然豊かな風景を描写し、のどかなシーンを演出。そこからいきなりカーチェイスへ移行――対比の効果によってカーチェイスのシーンがよりエキサイティングになっている。
 あの緩急(かんきゅう)のつけ方が、めりはりを活用した表現法。

『ルパン三世 カリオストロの城』(1979年公開)
 制作:東京ムービー新社  配給:東宝  監督:宮崎駿
************


 もっとも効果的なめりはりは、感情の強弱だ。
 心が落ち着いているシーンと、感情がたかぶっているシーン――
 その感情の変化が読者の心を揺さぶり、物語へと引き込む。


解決すべき問題があっての物語


 解決すべき問題があるから物語になる。
 謎、トラブル、悩み、目標や目的――そういったものがあるからこそ、ストーリーは展開する。
 結末(解決)を描くためには、解決すべき問題、主人公の動機が必要だ。


『謎』の要素は、読者を物語に引き込む力が強い。
 物語における謎とは、「作家にとってはわかりきっていることを、読者には知らせずにふせている事柄」のことだ。
 作家にはわかっていることを明かさずにふせておけば、どんな要素も『謎』にすることができる。

こちらをご参考ください。
物語における『謎』のつくり方と、気をつけなければいけないこと


 問題やトラブルを深くすると、『謎』の要素が濃厚になる。
「この状況から、どうやって解決するのか?」ということが謎の要素として加わるため、読者を物語に引き込む力が増す。

 問題やトラブルを深くする秘訣(ひけつ)は、主人公や登場人物たちがその問題に対して真剣に悩み、真剣に落ち込み、解決のために真剣に試行錯誤することだ。
 問題自体の大きさはあまり関係がない。
 主人公たちがその問題とどれくらい真剣に向き合っているかによって、その解決すべき問題は、物語のなかで深く大きいものになる

 謎の場合も同様だ。
 主人公たちがその謎と真剣に向き合い、真剣に答えをさがしもとめることで、その謎は深く大きいものになる。


「ストレス」と「スッキリ」のセンスが、物語を成功へと導く


 謎、すれ違い、誤解、未解決の問題――
 これらの要素は、「読者にストレスをかけることで、読者を物語に引き込む」という手法だ。
 このままだと落ち着かない、気になる、モヤモヤする――そのストレスを読者に与えているので、問題の解決(スッキリ)の質とタイミングが重要になる。

 問題の解決が『快』であるほど、スッキリの質は高まる

 また、解決のタイミングは、作者のセンスにかかっている。
 秘訣は、

  • なるべく早めにスッキリしてもらう
  • 物語に長く引き込むために「ストレス」を使う場合は、ひとつのストレスを長く引っ張るのではなく、「ひとつの問題が解決したら、また新たな問題が発生する」といったかたちで、ストレスとスッキリをくり返すようにする

 このふたつを心がけることだ。


痛快さをだす


 痛快感をだすために、主人公をとことんまで追い詰める――アメリカ的(シンデレラ曲線的)手法。
 また、とことん追い詰められるほどの状況になると、「どうやってそこから解決するのか?」ということが『謎』の要素となり、さらに読者を物語へと引き込むことができる。

 まず読者にストレスを与え、それを解消すること(解決すること)によって、読者に痛快感を感じてもらう。
 ストレスとスッキリの対比を目一杯活用したやり方

 この手法は、前振りとして「読者にストレスを与える」という手法なので、物語が重くなりやすい。
 ストレスのかけ方や程度(ていど)を、伝えたいテーマやメッセージに合うように検討しておく。


 なかなかうまくいかなかったとしても、最後にはうまくいく――
 たとえ何があったとしても、最後にはかならずうまくいく――
 それが、痛快さをだす秘訣だ。

 たとえ問題やトラブルが起こっても、それがきっかけとなって、最後には前よりも良くなる――それが理想的な解決(理想的な結末)だ。
 読者に「痛快さ」を感じてもらいたいのであれば、物語の終わりには主人公の状況が好転していることが望ましい。

ロバート・A・ハインラインの『夏への扉』などが好例。

『夏への扉』
 ロバート・A・ハインライン:著  福島正実:訳  ハヤカワ文庫SF(2010年)


 また、古典的な痛快さの手法は、現代でも有効だ。
 つまり、にくたらしい敵役(かたきやく)がいて、その敵役を懲(こ)らしめる――という昭和の時代劇的な手法だ。

 この手法では、敵役がにくたらしいほど、敵役が最後にまけたときの姿がみじめであるほど、痛快さがでる。
(ただし、懲らしめることに痛快さを感じるのは人として未熟な心理である。この手法による痛快さは低俗であることを自覚しておかなければならない)


展開が早いと、読者はその物語を「楽しい」と感じる


 物語がテンポよく進んでいくと、それだけで読者は「楽しい」という印象をいだく。
 これは、「楽しいことをやっているときは、時間が進むのが早く感じられる」という心理を活用したテクニックだ。
 つまり、「短時間のあいだにこんなにも話が進む(ように感じられる)のは、この物語が楽しいからだ」と読者は思うのだ
 短編や中編などの手軽に読める作品は、この感覚を読者に与えやすい。

 物語の展開が早いと、物語が進むのが短時間だったかのように感じる。時間の経過があっというまだったかのように感じる。
 そしてその『時間』に対する心理的な印象が、「この物語は楽しい」という評価になる。
 ゆえに、物語はテンポよく、展開が早めであることが望ましい


 物語をテンポよく展開させる手法として、

  • ひとつひとつのシーンが短めになるように心がける
  • 物語全体を凝縮して濃密にし、「ふつうに作成した場合よりもだいぶ短くなる」というぐらいの気持ちで、ストーリーの全体像をつくりあげる

 などがある。

「物語の凝縮(圧縮)」については、こちらをご参考ください。
手塚治虫先生の『火の鳥』から、物語づくりの高等テクニックを学ぼう


プロット作成のアイデア 連作ショートショートのようなかたちで物語をつくる


 連作短編によって、長い物語をつくる――という手法を、さらに短く区切ったやり方。
 ショートショートの連続のようなかたちで、物語を組み立てていく

 ひとつひとつのシーンが独立した物語であるかのように、それなりの落ちがついている。
 それぞれのシーンに落ちがついているが、テーマが一貫しており、時系列的にシーンが連続していることで、全体を見るとひとつの大きな物語になっている――という物語作成法。

4コマ漫画を原作にしたアニメ作品がこの手法の好例。


 この手法のデメリットは、
「それぞれのシーンがまとまっている(シーンごとに落ちがついている)ため、物語全体を通して見た場合、小さな起伏しかつくれず、話を盛りあげることができない」
 ということだ。

 しかし、この手法には大きなメリットがある。

  • それぞれのシーンをきれいにまとめているため、物語全体もまとまった仕上がりになる
  • 物語に大きな起伏がないので、ストレスが少なく、手軽に読める作品になる
  • それぞれのシーンに落ちがついているので、シーンごとにスッキリ感がある。そして、物語全体ではそのスッキリ感(快)を積み重ねているため、読み終わったあとに「楽しかった」という印象が残りやすい

 大きな起伏を必要としない物語(日常系など)の場合は、このプロット作成法が効果を発揮する。


キャラクター


 魅力的な登場人物が、物語をおもしろくする。
 キャラが立っている(登場人物が個性的で、魅力がある)――それだけで、物語はおもしろく、魅力のあるものになる。

 キャラクターは重要だ。
 キャラ設定は妥協せず、かならず納得がいくまでアイデアをだしつづける。

 登場人物のキャラが立っていれば、必然的に作中の会話も魅力的になる。
 そして、作品が魅力的になる。おもしろい小説になる。


 熟知性(じゅくちせい)の原則は、物語の登場人物においても有効
 たびたび登場するキャラクターは、確実に好感度があがる。

 逆の目的の場合でも熟知性の原則は有効。
 にくまれキャラは登場回数を増やすことで不快感がアップするため、にくたらしさを強調することができる。

熟知性の原則とは、「会えば会うほど好感度があがる」という心理学の理論。
こちらをご参考ください。
恋愛は、たくさん会うほうが有利なのか? 〈講義〉(1)
(『恋とは幸せなものなんだ』というサイトに掲載の中編小説『うまくいく恋愛ができるようになるために』より)


 登場人物のリアクション(反応)や感情によって、そのシーンで伝えたい雰囲気(ふんいき)や、作者が強調したいことを読者に伝えることができる。
 登場人物のリアクションや感情によって、作風でさえもあらわすことができる――「作中の人物が楽しそうだと、そのシーンの雰囲気や、作品全体の雰囲気も楽しいものになる」といったように。

 登場人物のリアクションは「語るより見せろ」にかなっており、物語に適した表現法だ。

「語るより見せろ」は、エンターテイメント系の小説で古くから言われている格言です。登場人物の心理や情景などを「言葉で説明する」のではなく、
登場人物の演技(動作やしぐさ)
演出(舞台効果)
 それらを使って表現するやり方のことです。


 登場人物は、全体の相関によってキャラクターを設定していくと、キャラ同士が互いの魅力を高め合うようになる。
 登場人物は、それぞれの役割、必要性、互いに与え合う影響によって、キャラが並び立つ。

〈人物相関からキャラクターをつくっていくという方法〉
「必要な存在」という観点からキャラクターをつくっていく。
 登場人物は、物語のなかでなんらかの役割を担(にな)っており、必要だから存在している。
 登場人物のひとりひとりが、物語に存在する意味を持っている。
 それが登場人物のあるべき姿であり、調和した人物相関であり、優れたキャラクター設定だ。

 重要な役割を担い、重要な役目を果たしている登場人物は、それだけでキャラが立つ。
 作中における『存在感』があるからだ。

『存在感』こそが、キャラを立てる秘訣!


 新キャラ(新しい登場人物)が物語にでてきたら、その新キャラを定着させる必要がある
 すぐにストーリーを進めるのではなく、その登場人物が主役のエピソードを1話か2話ほど盛り込み、物語に定着させ、読者にしっかりと印象づけてから次の展開に移ったほうが良い。


登場人物の計画(思惑)の表現法


 登場人物がなんらかの計画を立てて、それを実行するとき、その表現方法は、

**********
すべて計画どおりにうまくいく場合
      
 計画の内容については明かさずにふせておき、計画を実行するシーンを描写する。
(内容をふせていることで、その計画が『謎』の要素となって読者をひきつける、という効果もある)


計画どおりにいかない場合
・計画が失敗する
・計画どおりではないけど、結果的にうまくいく
・最終的に計画どおりになるけど、途中で予想外のことが起こる
  などの場合
      
 計画の内容を、実行前に読者に明かしておく
**********

 という表現のしかたが定石(じょうせき)であり、王道であり、もっとも成功しやすいやり方である。


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