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2024年8月5日月曜日

自己肯定暗示でうつを克服するまで

 
 私は29歳のときにうつになり、引きこもりの生活をしていました。
 そんな私に立ち直るきっかけを与えてくれたのは、むかしの子供番組――昭和の特撮ドラマでした。

こちらをご参照ください


 それを機に、私は社会に復帰するため、「自力でうつを克服する」という難題にいどむ決意をしました。

 心の病には瞑想(めいそう)が効果的――その情報をもとに、私は瞑想の研究と実践(じっせん)にはげみました。
 その結果、瞑想をつづけても社会復帰にはつながらないことを、身をもって知りました。

こちらをご参照ください


 私は社会復帰をはたすため、瞑想から肯定暗示(自己暗示)へ移行したのですが……。

 ここでもまた、つまずきがありました。
 結論から言うと、「思考は現実化する」という理論にまどわされたからです。


自己肯定暗示でうつを克服する


 引きこもりになる前の私は、作家になることを目指して「バイトをしながら作家修業をする」という生活をしていました。
 うまくいかなくて迷いが生じ、某アクションクラブに1年ほど在籍したり、就職して写真屋の店長になったりしましたが、やはり「作家になりたい」というのが私の本心でした。

 私は社会復帰を目指すにあたって、引きこもりになる前の状態にもどること――すなわち、「バイトをしながら作家修業をする」という生活を再開することを目標にかかげました。


 バイトをしながら作家修業――ふつうに考えたらけっしてハードルは高くない目標なのですが、うつになっている人間にとってはたいへん困難なことでした。
 無気力にさいなまれていて行動することができない、という精神状態ですので、バイトであっても仕事を見つけて働くというのは不可能な状況でした。


 引きこもりになって人生がリセットされたのだから、これからは本当に自分がやりたいことをやろう――
 その思いから本格的に作家を目指そうと決意したのですが、うつの人間にとって創作は、まさに困難の極(きわ)みでした。

 一日じゅうワープロにむかっても1行も書けないという有り様……。
 創作という「新しいものを生みだす行為」は、うつという精神状態でできることではありません。
 やろうとすればするほど苦悩し、自分がますますみじめになりました。
 自分が本当にやりたいことをやる――それがあらたな苦悩を生みだし、完全に負(ふ)の連鎖におちいっていました。

「肯定暗示(自己暗示)によってうつを克服し、社会復帰をはたす」
 という私の試みは、そのような状況からのスタートでした。


 ページ内目次


「思考は現実化する」を実践した結果


 私はうつになる以前から、潜在意識への肯定暗示(自己暗示)について、多少の知識がありました。
 私はプロとしてボクシングをやっていたことがあるので、成功や勝利を信じるプラス思考を身につけるために、関連の自己啓発書を読んでいました。

当サイトの管理人・本条克明は元プロボクサーです。


 成功哲学、成功法則、引き寄せの法則――いくつかの呼び方はあるものの、そこで説かれている理論はほとんどおなじです。

 つまり、
「思考は現実化する」
 という理論です。


 当時の私は、
「何をやってもうまくいかない」
「私はだめな人間だ」
 という強い否定感にとらわれていました。
 この否定感を解消しないことには、うつや引きこもりから抜けだせないこともわかっていました。

 私は「思考は現実化する」という理論をもとに、うつを克服するための自己肯定暗示を実践(じっせん)しました。

「私は、うつではない」
「私がやることは、うまくいく」
「私は、できる」
「私は、価値のある人間だ」
「私は、社会の役に立てる人間だ」

 自分の心のなかの否定感を払拭(ふっしょく)するため、そのようなフレーズをアファメーションにし、日々、くり返し唱(とな)えました。

「アファメーション」とは、短い肯定暗示(自己暗示)のフレーズのこと。本来は「宣言」という意味の言葉なのですが、自分に対する宣言(肯定的なことを言う)がプラスの自己暗示になるため、自己啓発の分野では「肯定暗示文」という意味で使われています。


 その結果――

 唱えた内容(思考)が現実化するどころか、逆効果になりました。
 うつが悪化し、みずからの死を願うほどの危険な状態にまでなりました。

「努力逆転の法則」におちいったからです。


努力逆転の法則 自己暗示においてもっとも注意すべきこと


「成功哲学」や「引き寄せの法則」をうたった書籍には、
「否定的な観念に対しては、正反対の肯定的な暗示をかければ良い」
「潜在意識にはうそをついてかまわない」
 と説いているものが多々あります。

 はっきり言って、事実ではありません。
 事実でないばかりか、とても危険なことです。

 潜在意識と正反対の暗示をかけたり、潜在意識に対してうそをついたりすると、「努力逆転の法則」が起こるからです。


 催眠療法における歴史的な第一人者に、エミール・クーエという人物がいます。
 クーエは潜在意識や暗示の性質について、たいへん有名な理論を提唱しました。
「想像力と意志が対立した場合、勝つのはつねに想像力のほうである」
 と説いたのです。

 イメージ(想像力)と意志(思考)が対立した場合は、かならずイメージのほうが勝つ――
 潜在意識はイメージ思考であり、通常の意識は言語による論理的思考です。
 つまり、
「潜在意識と意識が対立した場合、かならず潜在意識が勝つ」
 ということです。

 さらにクーエは、
「想像力と意志が対立した場合、想像力の力は意志の力の2乗に正比例する」
 と説いています。
 心の力は数値にはできないので、「2乗に正比例」という部分については賛否両論かもしれません。
 ですが、
「意識と潜在意識が対立した場合、潜在意識のほうが圧倒的な力を発揮する」
 というのは、まぎれもない事実です。

 つまり、
「潜在意識は、通常の意識よりもはるかに強力なので、対立したら、潜在意識にはどうやっても勝てない」
 ということです。


 クーエが説いた法則をもとに、のちにシャルル・ボードゥアンという人物が「努力逆転の法則」を提唱しました。

「意志(思考による通常の意識)とイメージ(潜在意識)が対立している場合、意志の力で努力すればするほどイメージ(潜在意識)が意志力よりも強い力で打ち消すため、かえって逆効果になる」
 という理論です。

 例をあげてみましょう。

**********
 あなたはいま、これから本番をむかえようとしています。
 本番で失敗するわけにはいきません。かならずうまくやらなくてはいけません。

 あなたは本番を前にして、緊張が高まっています。
 失敗したらどうしよう、うまくいかなかったらどうしよう――不安でいっぱいになっています。
 その不安や緊張からのがれるために、あなたは自分に強く言い聞かせます。

「私は緊張していない」
「私に不安なんてない」
「私は落ち着いている」
「私は、できる!」
**********

 このような努力をすると、逆効果になります。
 潜在意識が不安でいっぱいのとき(うまくいかなかったときのイメージをしているとき)に正反対の暗示をおこなうと、潜在意識はそれを打ち消すため、否定的なイメージを強化します。
 その結果、かえって緊張してしまうことになります。

 これが「努力逆転の法則」です。

本番前の緊張については、こちらをご参考ください
(別サイト『月尾ボクシングジム物語』のエッセイ記事)


努力逆転の法則が起こらないようにするには……


「思考は現実化する」という理論をもとにしている成功哲学や引き寄せの法則では、
「否定的な想いに対しては、正反対の肯定的な暗示をかければ良い」
「潜在意識にはうそをついてかまわない」
 と説いていますが、自己暗示をおこなううえで、これはかなり危険です。

 努力逆転の法則が起こるからです。

 私はまさにそれにおちいりました。
 私の場合はうつを克服するために自己暗示をおこなったので、うつとは正反対の暗示をかけようとしたのですが、努力逆転の法則が起こり、さらにうつが悪化するという事態になりました。


 私は肯定暗示(自己暗示)について、あらためて勉強しなおすことにしました。
 潜在意識や自己催眠、催眠療法に関する書籍を読みあさり、暗示に対する専門的で正しい知識を集めました。
 自分に起こったことが「努力逆転の法則」であることも、このときに知りました。

 それから私は、努力逆転の法則が起こらない自己暗示のかけ方を研究しました。
 ヒントとなったのは、催眠の分野で説かれている、
「暗示のフレーズに『気持ちいい』や『楽しい』などをいれると、暗示が成功しやすくなる」
 というテクニックでした。

 暗示が潜在意識と対立するか否(いな)かは、その暗示に『快』があるかどうかで決まるのでは?
 そう思い至ったのです。

 私はその仮説をもとに、自己暗示のやり方を独自にアレンジしました。


うつを克服する自己暗示の第一段階 『快』を呼び起こす


 潜在意識と対立しないように暗示をかけるには、その暗示に『快』があることが重要である――

 その仮説を実践するにあたって最初におこなったことは、心に『快(喜びの感情)』を呼び起こすことでした。

 うつになると、感情が起こりにくくなります。
 特に肯定的な感情――喜びの感情は起こりにくくなります。

 私の仮説が正しければ、『快』を感じる心がなければ潜在意識への暗示はうまくいかないということになります。
 そのため、まずは心に『快』を呼び起こすことに専念しました。

  うれしい
  楽しい
  ありがたい
  好き

 これらの言葉をもとにアファメーションをつくったり、単語法として唱えたりして、『快』を呼び起こすための自己暗示をおこないました。

具体的なやり方については、こちらをご参照ください


 当時、わが家には茶トラの猫(名前はチャトラン)がいたのですが――


「チャトランが好き」
 というフレーズをアファメーションにして、口癖(くちぐせ)のように唱えました。
 もともと好きだった猫に対する感情が「大好き」になり、さらには「愛しくてたまらない」という感情にまで高まりました。


「好き」という感情が潜在化したことによって、すべてが良くなっていきました。

  うれしい
  楽しい
  わくわくする
  ありがたい

 そういった喜びの感情は、自然なかたちで、あたりまえのようにわきあがってくるようになりました。
「好き」という感情から、何もかもが良い方向に進み、人生が好転しました。

 愛には、自分自身を救う力がある――
 私はそれを、身をもって知りました。


うつを克服する自己暗示の第二段階 『快』を基準にして肯定暗示をおこなう


 心に『快』を呼び起こすことに成功した私は、社会復帰にむけての肯定暗示(自己暗示)にいどみました。

 目標達成のため、自分を変えるための肯定暗示をおこなうにあたり、私は次のことをルール化しました。

  • 作成した暗示文を唱えたときに『快』の感覚があるかどうかを、注意深く見極めること
  • もし『快』の感覚がないのなら、その暗示は潜在意識と対立している可能性が高いので、その暗示は却下すること
  • もし『快』の感覚がある場合は、その暗示は潜在意識にとどいているので、その暗示をくり返しおこなうこと

 これによって私の自己肯定暗示は、うまくいくようになりました。
 自分でも驚くほど、うまくいくようになりました。

 作家修業も、うまくいくようになりました。
 一日じゅう机にむかっても1行も書けなかったのに、文章を書くこと、創作をすることが楽しくて、時間も忘れるほど夢中になって執筆できるようになりました。

 また、『読む肯定暗示』を考案したのもこのときです。
 作家修業でつちかった「文章を書く技術」を使って、暗示力の高い自己暗示文をつくる――
 それを思いつき、みずから実践しました。
 この『読む肯定暗示』は、自分でも驚くほどの効果を発揮しました。

『読む肯定暗示』については、こちらをご参照ください


 そして、「作家修業を支えるための仕事(バイト)を見つける」という課題が最後に残りました。
 私の引きこもり生活はおよそ5年つづいたので、仕事をしていないブランクがそれだけあります。
 たとえバイトであっても5年もブランクがあるのだから、雇ってくれるところなんてないんじゃないのか――
 そんな思いもあったのですが、肯定暗示のおかげか運も味方して、あっさりと良い条件のバイトを見つけることができました。

 こうして私は「バイトをしながら作家修業をする」という目標を達成し、引きこもりの生活に終止符を打ちました。
 ついに社会復帰をはたすことができたのです。


『快』によって潜在意識の強大な『力』が味方になる


 私が肯定暗示(自己暗示)によるうつの克服を試みてからそれをはたすまで、およそ1年半を要(よう)しています。
 時間がかかった理由は、「努力逆転の法則」が起こっているのに、なかなかそれに気づくことができなかったからです。
「思考は現実化する」という理論を信じ、それに固執(こしつ)したことが原因です。

 事実は、「思考は現実化する」ではなく、
「想い(感情をともなった思考)が現実化する」
 だったんですね。

 自己暗示における『快』の重要性に気づいてからは、トントン拍子でうまくいくようになりました。
 それこそ「奇跡」と言えるほど、何もかもが良くなりました。


 うつから立ち直る最初のきっかけとなったのは、昭和の特撮ドラマでした。

 このとき心に呼び起こされた『快』によって、私はうつの克服にいどむ勇気を得たのですが……。
 はっきり言って、このときにすでに『答え』を得ていました。
 心に呼び起こされた『快』を高め、その『快』のエネルギーを使えば、人生を好転させ、うつを克服することは可能でした。

 瞑想をしたり、「思考は現実化する」という理論にとらわれてうつを悪化させたり――そんなことをしてさらに3年の月日を使ってしまいました。
 遠回り以外の何ものでもありません(苦笑

 でもまあ、そのおかげで瞑想や自己暗示に精通することができたので、いまにして思えば「あれはあれで良かった」と言うことができるんですけどね(笑


 とはいえ、みなさんは遠回りをする必要なんてありません。

『快』すなわち「喜びの感情」には、うつを克服するほどの『力』があります。

 あなたの『快』を、大事にしてください。
 喜びとともに生きてください。
 それによって潜在意識の強大な『力』が、あなたの味方になってくれます。

 あなたは、あなたが望む『幸せ』を、手にいれることができるようになります。


うつに関するほかのお話

本条克明がうつを克服した方法(肯定暗示法)

『快』に関するほかのお話

本番前の緊張に関するお話
(『月尾ボクシングジム物語』のエッセイ記事)


更新
2024年8月9日 文章表現を一部改訂。
2024年8月18日 ラベル「猫」を追加。
2024年11月15日 文字の拡張(色)を一部変更。リンクを追加。
2024年11月26日 リンクを追加。